キタムラ世界の医療切手博物館
北村 聖 先生
月刊カレントテラピーVol.42 No.10
緩和医療 ―がん医療における心のケア―
華岡青洲の功績を称えて
発行国日本
表紙の切手は,第100回日本外科学会総会を記念して2000年(平成12年)4月11日に日本郵便より発行された切手である.切手の意匠は,華岡青洲と,「通仙散」の主成分である朝鮮朝顔が描かれている.
華岡青洲(1760~1835)は,江戸時代末期,1804年に自ら開発した麻酔薬を用いて,世界で初めて全身麻酔下による乳ガン摘出の外科手術に成功した医師である.和歌山県出身の青洲は,医学を学ぶため,23歳で京都に出ていき,そこで,中国の華佗が麻酔薬を使った手術で多くの患者を救った事実を知り,故郷の紀州平山(和歌山県紀の川市)に帰ってからも,父のあとを継いで治療にあたりながら,麻酔薬の研究に取り組んだ.研究への協力を申し出た母と妻に麻酔薬を飲ませ,副作用で妻が失明するという事故を経て,麻酔薬「通仙散」を完成させた.朝鮮朝顔は,別名を曼荼羅華(マンダラゲ)といい,江戸時代に輸入され,薬用に栽培されたナス科の植物である.全身麻酔下で手術に成功したのち,青洲は診療所と学校を兼ねた「春林軒」をつくって,医師を育てた.青洲の医療に対する考え方は「内外合一,活物窮理」という言葉に示され,和歌山県立医科大学の理念になっている.
日本外科学会は,外科学に関する基幹学会として,研究発表,知識交換などを通じて,わが国の外科学の発展に寄与している.1899年(明治32年)に第1回総会が開催され,2000年には「未来のための今」をテーマに第100回総会が開催された.
月刊カレントテラピーVol.42 No.9
成人先天性心疾患 ―診療の本質と最新の知見―
共に疫病と戦う
発行国中国マカオ
表紙の切手は,2020 年6月に中国マカオで発行された新型コロナウイルス撲滅キャンペーンの切手である.新型コロナウイルス関連の切手は,世界中の多くの国から発行されたが,これは極めて早い時期の切手といえる(2020年6月24日発行).意匠は中央に医療者の指でハートの形を作り,背景に聴診器が描かれている.左下は,キャンペーンのシンボルマークであり,下部に記載されている「Juntos no Combate à Epidemia(ポルトガル語)」は「共に疫病と戦う」という意味である.
マカオは漢字表記では「澳門」と書き,中華人民共和国の特別行政区で旧ポルトガル領である.中国大陸南岸に位置し,カジノや世界遺産に指定されている植民地時代の建築物の観光地として知られる.人口はおよそ67万人で,世界でもっとも人口密度が高い地域である.1平方キロメートル当たり2万人が住んでいる.言語は中国語(広東語)に加えて,ポルトガル語が公用語とされている.法定通貨は,「マカオ・パタカ」であるが,香港ドルも等価で通用する.通貨が違うと切手も違うのが通例で,マカオ郵政が独自に切手を発行している.
新型コロナ対策として,中国本土と同じように「ゼロコロナ」政策を行ったが,中国のほかの地区と同様にパンデミックが発生し,コロナピーク時に一週間のロックダウンを行った.その後,本土と同様に「ウィズコロナ」そして「アフターコロナ」へと政策が転換している.
月刊カレントテラピーVol.42 No.8
健康長寿と Well-being ―生きがいを伴った幸福長寿―
医療プロフェッショナリズム
発行国イタリア
表紙の切手は2021年にイタリアで発行されたものである.この切手は記念切手ではなく,通常切手のシリーズの一枚のようであり,おそらくチーム医療をたたえるものと想像される.意匠は中央に3人の医療者が描かれていて,後ろにさらに2人のシルエットがある.そして,小さい円形のなかには医療に関する図案・絵文字が描かれている.一種のピクトグラムである.この小さなピクトグラムが10個と,シルエットが4個あり,チーム医療を象徴している.ユニークなのは右上のもので,頭脳に○が2つ書かれており,おそらく精神を象徴していると思われる.認知症や精神疾患,発達障害などを連想させる.もう一つは上段中央のアスクレピオスの杖である.医学・医療を象徴することが多いが,この切手ではおそらく,医療者のプロフェッショナリズムを象徴していると思う.切手の右上には赤字で「PROFESSIONISANITARIE」と書かれてある.イタリア語で「聖なる職業(聖職)」という意味である.
わが国でも,医療者の働き方改革が始まり,労働と自主研鑽の線引きや「やりがい搾取」「プロフェッショナリズム搾取」などがキーワードになっている.米国でも「Calling(天職)かJob(仕事)か」という議論が論文になっていた.医療職はやりがいのある,よい職業と思うが,過労にならないよう,医療者のWell-beingも考えていきたい.
月刊カレントテラピーVol.42 No.7
発達障害を支援する
看護と助産という職業に感謝する
発行国オマーン
表紙の切手は2021年に国際看護師の日にちなんでオマーンで発行されたものである.2連刷切手の1枚で,近代的医療機器の前で助産師が新生児の看護を行っている意匠である.切手の下部に「Appreciating theprofession of nursing and midwifery」(看護と助産という専門職業人に感謝する)と書かれてある.なお,看護の日はナイチンゲールの誕生日にちなんで5月12日に制定されている.
切手の発行国・オマーンはアラビア半島の東端にあり,ペルシャ湾とインド洋をつなぐ交通の要所に位置している.産油国であり,絶対君主制で,経済も安定している.人口は約500万人で面積は日本の8割ほどである.前国王の祖父に当たる先々代国王タイムール・ビン・ファイサルは退位後の船旅で1935年に神戸で出会った日本人の大山清子と結婚しており,親日的な国としても知られている.
本誌の特集内容と,表紙の切手は原則,関係ないものの,今のところ通説では,発達障害は乳幼児期にも発症するとされている.発達障害では,脳の機能に先天的な特性があり,主にコミュニケーションや社会性の発達に困難を伴うことが多く,乳幼児期から症状が現れることがあり,早期発見・早期支援が重要とされている.
月刊カレントテラピーVol.42 No.6
地域包括ケアシステムにおける在宅ケアの連携 ―多職種連携で共生社会の構築を目指す―
シンガポールの家庭医Ⅱ
発行国シンガポール
表紙の切手は,2021年にシンガポールで発行された「シンガポール家庭医大学創立50周年」を記念する切手の一枚.6種類の切手が発行され,いずれにも家庭医が日常行っている診療行為,すなわち高齢者診療や予防接種,血圧測定,小外科手術などが描かれている.小児の予防接種の切手は本誌40巻2号の表紙とした.今月号で取り上げた切手は,高齢者医療を表現.女性医師が高齢患者と会話していて,右下に花束が添えられている.
都市国家であるシンガポールには国際的にも有名なシンガポール国立大学(NUS)医学部があり,ほぼ医師の需要を満たしているが,足りない分は欧米で医学教育を受けた自国民を採用している.シンガポールでは医師資格は更新制で,生涯学習(CME)のプログラムを受講する必要がある.このプログラムの一つとして,家庭医養成のためにシンガポール家庭医大学が一般開業医のグループによって1971年に設立された.この大学の使命として,家庭医学の進歩に取り組み,教育と普及活動を通じて医師のレベルアップに精力的に取り組んできた.細かく分かれた専門分野だけを診療する専門医に対して,総合的に診療する医師を,総合医とか一般医という.一方,そのなかでも,家庭医療に特化している医師を家庭医という.すなわち家庭医は,健康な時の健康増進や予防医療から,保健医療以外の福祉・介護や看取りまで一貫して患者に寄り添う姿勢で対応するものであり,働く場所から家庭医と呼んでいる.その詳細はこの特集に詳しいが,総合医の養成が地域での医師不足の解消に役立つことは衆目の一致するところであり,シンガポールでの成功例は他の国にとって学びが多いと思われる.シンガポールの面積は東京23区とほぼ同じで,いわゆる僻地医療はないが,家庭医は絶対に必要であり,その活躍により病院への患者集中が防がれ,合理的な医療が提供されている.
月刊カレントテラピーVol.42 No.5
婦人科がんの 最新治療 ―がんゲノム医療による精緻な治療―
乳がん撲滅キャンペーン切手
発行国マケドニア
表紙の切手は2014年にマケドニアで発行された,乳がん撲滅のキャンペーン切手である.意匠は,中央に乳腺あるいは乳がんと人の横顔を模したと思われる4色のイメージが描かれ,左下に乳がん撲滅のシンボルであるピンクリボンが描かれている.上部と下部にはマケドニア語で「定期検診 より良い健康管理」と書かれている.そして,最下部にはマケドニアの国名が書かれている.マケドニアは東ヨーロッパのバルカン半島に位置し,旧ユーゴスラビアを構成し,1991年ユーゴスラビア社会主義連邦共和国からマケドニア共和国として独立した.2014年発行のこの切手はこの国名が使われているが,2018年「北マケドニア」への改称で,ギリシャと歴史的な合意に達し,2019年2月,正式に「北マケドニア」と改称している.北マケドニア共和国はEUに加盟し,また,2020年には30番目のNATO加盟国となった.
ピンクリボン運動は,1980 年代,アメリカの乳がんで亡くなられた患者さんの家族が「このような悲劇が繰り返されないように」との願いを込めて作ったリボンからスタートした乳がんの啓蒙運動であり,ピンクリボンは乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の重要性を伝えるシンボルマークとしてバッジ等として使われている.赤いリボンや緑のリボンなど多くのシンポルが保健・健康キャンペーンで用いられているので,調べてみると面白いかもしれない.
月刊カレントテラピーVol.42 No.4
川崎病 ー最近の進歩ー
COVID-19に対する UNHCRの働きがテーマ
発行国スペイン
表紙の切手は2021年にスペインで発行され,新型コロナウイルス感染のパンデミックに対する国連難民高等弁務官事務所の働きを表現した切手である.左上にロゴマークとともに,英語とスペイン語で事務所の略号が記され,切手の中央にも「国連難民高等弁務官事務所によるCOVID-19対策」という文字があり,それとともに国連職員から難民と思われる黒人住民にロゴマークの記載された箱が渡されている.切手の右側のタグ部分には「売上の3%がCOVID-19対策に使われる」と記載され,同時にウイルスを形どったような心臓(ハート)が描かれている.
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:The Office of the United Nations HighCommissioner for Refugees)は,1950年に設立された国際連合の機関で,紛争や迫害によって故郷を追われた難民の保護と支援を世界130カ国以上で行っている.主な活動内容は難民保護,難民支援(食料や医療,教育)に加えて難民の定住や問題の啓発などである.コロナウイルスのパンデミックは難民支援でも重要なものであったと想像される.
ただし,現在ではスペインの難民はウクライナからの人が多く,コロナ感染症も落ち着いたため,切手が発行された頃とは情勢がかなり異なってきている.
月刊カレントテラピーVol.42 No.3
アルツハイマー病疾患修飾薬の臨床応用に向けて
アルツハイマー病患者と 介護者がモチーフ
発行国アルゼンチン
表紙の切手は2012年9月にアルゼンチンで発行されたアルツハイマー病の啓発切手である.意匠は中央にブルーで認知症患者を描き,その思考は雲のようにあいまいになっている.隣にはピンクで家族・介護者が描かれ,思考は丸くしっかりしている.右上には額面が,その下部にはスペイン語で「ACOMPANARENTENDER APOYAR CADA DIA」と書かれ,「毎日付き添ってサポートを理解する」という意味になる.切手の発行要旨は,家族や介護者とアルツハイマー病患者との支えあいの関係を表現し,日々の付き添い,理解,サポートをモットーにしている.
アルゼンチンは南米の大国で,人口は約4,500万人,年齢別構成を見ると,15歳未満の人の割合は23 . 5%で,世界平均(25%)をわずかに下回るが,65歳以上の高齢者割合は12 . 7%と比較的高く(日本の28 . 4%に比べれば圧倒的に低いが),高齢化率は中南米でウルグアイに次ぐ第2位であり,世界平均の9 . 8%を大きく上回っている.年齢の中央値は約32歳(日本48 . 4歳),平均寿命は78歳であり,人口が高齢化してきたことにより,認知症などが社会問題となっていることが,この切手を発行した背景にあると思われる.
昨年,アルツハイマー病に対する抗体薬が認可された.治癒させるのではなく,進行を遅らせる効果があるとされる.医薬品経済には大きなインパクトがあるものの,実際の有効性はどれくらいだろうか.実臨床での報告が待たれる.
月刊カレントテラピーVol.42 No.2
糖尿病 ―その病態と,予後決定因子, 治療薬が教えてくれること―
インスリン発見100年
発行国カナダ
カナダで2021年に発行された「インスリン発見100周年」を記念する切手.
切手の意匠は,右上にインスリンの英・仏の文字と,1921年から2021年までの文字.その下にカナダ郵政の記載がある.中央右にはインスリンのバイアルと左半分にはバンティングの日記と思われる直筆の記述がある.残念ながら十分には読み取れない.また,この切手には額面の記載がないが,10枚で9.20カナダドルで販売された.郵便料金が値上げされても,この切手は標準的封書1通を届けるのに有効であるという意味で料金が表示されていないものと思われる.
インスリンの歴史は,1869年(明治2年),ドイツのランゲルハンスが膵臓に周囲とは異なる組織学的構造を持つ細胞群を発見したことに始まり,その後,これらの細胞はランゲルハンス島細胞と名付けられた.その約50年後,1921年(大正10年)に,カナダの外科医フレデリック・バンティングと学生チャールズ・ベストは,トロント大学のジョン・マクラウド教授の指導のもと,糖尿病イヌの血糖値を下げる物質の抽出に成功した.これがインスリンの発見である.バンティングとベストは,1922年(大正11年)1月11日,糖尿病患者に初めてインスリンを投与し,その結果,患者の血糖値は正常化し,糖尿病の治療に大きな進歩をもたらした.この発見は「トロントの奇跡」と呼ばれ,バンティング,ベスト,マクラウド教授は1923年(大正12年)にノーベル医学生理学賞を受賞した.
インスリンは,当初,ウシやブタの膵臓から抽出されていたが,その後,遺伝子組み換え技術により,ヒト型のインスリンが製造されるようになり,広く用いられている.
<この文章は一部生成系AIによる文章を参考にした>
月刊カレントテラピーVol.42 No.1
心不全の最新治療 ―再生医療を用いた最新の知見―
世界保健デー記念切手
発行国ナイジェリア
表紙の切手は,1992年にナイジェリアで発行された,世界保健デーを記念する切手である.意匠は,上に「HEARTBEAT(心臓の拍動)」と赤字で記され,その下 に「THE RHYTHM OF HEALTH(健康のリズム)」と黒字で書かれている.中央左に,WHOのロゴが,中央には心臓と水銀血圧計が描かれている.下部には世界保健デーの文字と,国名,切手の額面が書かれている.
世界保健デー(World Health Day)とは,WHO憲章が設定された4月7日を記念して,1950年以来,毎年4月7日世界が足並みをそろえて健康増進の活動を行う日とされている.毎年統一テーマを設けて,キャンペーン活動を行っているが,切手が発行された1992年の統一テーマがまさに“Heartbeat, the Rhythm of Health.”であった.
ナイジェリア連邦共和国は,アフリカの西海岸,アフリカ大陸のくびれのようなギニア湾に面した国であり,1960年に英国から独立した.面積は日本の約2倍で,人口も約2倍の2億人あまりが生活し,これは世界7位,アフリカ州で最も人口が多い.それも,若年人口が多い.GDPも世界20位台であり,発展途上とはいえ,勢いのある国に見受けられる.ナイジェリアの医療事情については,十分な情報がないが,わが国のレベルには及びもつかないレベルと思われる.
月刊カレントテラピーVol.41 No.12
医師の働き方改革 ー2024年働き方改革元年に向けた取り組みー
医師への感謝
発行国アルメニア
表紙の切手は,2021年にアルメニアで発行された「医師への感謝:ウイルス対策パンデミック」を表現する切手である.意匠は,右側に防護服を着た医師が祈る姿を,左側には大きく「ありがとう」の文字がハート+心電図の絵柄とともに描かれている.実質,2020年から始まったCOVID-19の世界的蔓延に関連して,多くの国でコロナ関連の切手が発行された.最初は,コロナウイルスに対する警戒を高める趣旨のものが多く,意匠としてはウイルスが多かった.その後,予防を喧伝するものが多くなり,図柄としてはマスクや,手洗いを勧めるものが多くなった.そして,2020年頃から医療者への感謝を伝えるものがみられるようになった.
アルメニアは,アジアとヨーロッパの境界に位置する内陸国で,北はジョージア,東はアゼルバイジャン,南はイラン,西はトルコと国境を接しており,1991年に旧ソ連から独立した.
アルメニアは,山岳地帯が多く,気候は乾燥し,年間の気温差が大きく夏は40度以上,冬は氷点下20度以下となることがある.国土の約4割が牧場や牧草地,約2割が耕地や果樹園として利用されている.首都はエレバンで人口およそ300万人のアルメニアで,110万人が集中している.旧ソ連を構成した国であり,我が国ではなじみが少ないが,アルメニアは豊かな歴史と文化を持つ国であり,近年では,IT産業の発展も著しい.
月刊カレントテラピーVol.41 No.11
ネット社会のアディクション
子どもの予防接種推進活動
発行国メキシコ
表紙の切手は,1991年にメキシコで発行された「子どもの予防接種を推進する活動」の切手である.意匠は水滴の中に子どもが描いたようなタッチで,6人の子どもが描かれている.この水滴の外側にキャッチコピーが記されている.「todos los niños todas las vacunas」(スペイン語)を直訳すると「すべての子どもたちに,すべてのワクチンを」となる.
近年,「ワクチンで防げる病気」Vaccine Preventable Diseases(VPD)という概念が打ち立てられ,社会に対しての啓蒙活動が広く行われている.ワクチンで病気を防ぐことの大切さを社会全般に広げようという活動である.同時に,予防接種に関する副作用救済制度などの理解も高める必要がある.ワクチンは,ある割合で障害をきたす可能性があり,公衆衛生としてはリスクとベネフィットを理解する必要がある.
メキシコには日本のような被害者救済制度といったものはない.地域に特徴的な感染症環境などから必須のワクチンも国ごと,地域ごとに異なっている.そのため,日本人がメキシコに渡航する際は狂犬病とA型肝炎も接種する必要がある.実際,相当な数と費用がかかる.
月刊カレントテラピーVol.41 No.10
喘息,COPD,喘息・COPD オーバーラップ症候群の病態生理
禁煙キャンペーン切手
発行国ベトナム社会主義共和国
表紙の切手は、2018年にベトナム社会主義共和国で発行された禁煙キャンペーンの切手である。発行日の5月31日は「世界禁煙デー」とされている。意匠は右側に赤色を背景に喫煙で汚れた黒い肺と、副流煙に受動的に晒される幼児を含む男女が描かれており、下部に禁煙を訴える「STOP」の文字がある。またその下には喫煙していると思われるタバコを手に持つ絵も描かれている。左側は緑色を背景に健常な赤い肺と平和な家庭を象徴するような家が描かれている。下部には「タバコの害の予防と抑制」あるいは「健康のためにタバコは吸わないでください」という内容と思われるコピーが書かれている。最下部には切手の額面3000ドンと国名が記されている。
ベトナム郵政による解説を引用する。世界保健機関の統計によると、毎年世界中で約700万人がタバコに関連する病気で死亡しており、うち約90万人が受動喫煙により死亡している。ベトナムは、世界で最も成人男性の喫煙率が高い15カ国のひとつで、平均して成人男性の2人に1人が喫煙している。ベトナムでは毎年、約4万人がタバコ関連疾患で死亡しており,そのなかにはがん、心血管疾患、慢性閉塞性肺疾患など多くの危険な疾患が含まれており、ベトナム人の重大な死因となっている。
近年、ベトナムと日本は経済的、人的に交流が盛んになってきている。医療人の交流も多く、わが国の医療法人によるドック健診センターなどがベトナムに開設されている。そんななかで、公衆衛生上の課題を共有するべきであろう。日本のたばこ会社によるたばこ販売なども考慮すべきことかもしれない。
月刊カレントテラピーVol.41 No.9
減塩 ―循環器病予防のための効果と戦略―
同善堂130周年切手
発行国マカオ
切手は、マカオで2022年に発行された、同善堂130周年切手である。切手の意匠は,東洋医学でいう「脈診」の様子を描いたもので、左上に澳門(マカオ)郵政の文字と、左下に同善堂一百三十周年の文字、右下に価格が描かれている。
同善堂は、1892年に設立されたマカオで最初の中国の慈善団体で、貧しい人々への衣服や食料の供給以外にも、現在では診療所や薬局まで運営している。
1887年の中葡和好通商条約により、マカオはポルトガルへの正式割譲となり、以来、ポルトガル直轄の植民地として第二次世界大戦後も続いた。マカオの行政管理権は1999年12月20日に中華人民共和国へ返還され、マカオは中国の特別行政区となった。したがって、慈善団体である同善堂はポルトガル領において中国人のために活動を100年以上にわたって続けていたことになる。
末梢動脈で動脈拍動を診察することは、洋の東西を問わず重要なことである。東洋医学では「脈診」と名付けて、特に重要視している。多くは、手首において、橈骨動脈の拍動を確認する。一般には脈拍数の計測と、不整脈の有無を診る。熟練してくると、診察者の指の圧迫で高血圧の有無までわかる。さらに、脈の立ち上がりの速さで弁膜症や動脈硬化の有無なども診察する。近年は、簡単に動脈脈波を得ることができるようになったが、脈診だけでその
脈波図をイメージできるようになると熟達の域になる。
月刊カレントテラピーVol.41 No.8
臨床医が知っておくべき漢方治療 ―現場で役立つ漢方処方と運用法―
マカオの「中国医学」切手
発行国マカオ
表紙の切手シートは2020年にマカオで発行された中国医学をテーマにしたものである。今月号の特集に合わせて選択したが、切手だけでなくシート全部を載せたほうが良いと判断した。
意匠をみると、中央に中医の医師が若い女性患者の脈診を取っているところである。これが切手部分になっている。背景には漢方の代名詞とも言える百味箪笥(薬箪笥)が並んでいる。シートの左には中醫という言葉と五行と五臓六腑の相関を表す円が描かれている。
下には中医学で用いられる道具が並んでいる。一番右はおそらく薬研と思われる。西洋医学では乳鉢に相当するもので、わが国の漢方では薬研は車を転がすものが多いが、色々な種類がある。その隣は同じく薬研の小さいものではないだろうか。右から3つ目は押切というもので、薬草を押しつぶす器械、4つ目の絵は布の上に並べた薬草や薬剤である。一番左は近代的な器械で、生薬を煎じるものと思われる。
マカオは正式には中華人民共和国マカオ特別行政区であるが、通称マカオ、あるいは澳門(おうもん)という。中国大陸南岸で香港や広東の近くに位置する旧ポルトガル海外領土で、現在はカジノや世界遺産を中心とした世界的観光地として知られる。多くのカジノが運営されていることから、「東洋のラスベガス」ともいわれる。
月刊カレントテラピーVol.41 No.7
免疫チェックポイント阻害剤の副作用 ―irAEの発生メカニズムとその対処方法―
ルイ・パスツール生誕200周年
発行国フランス
表紙の切手は、2022年にルイ・パス ツールの生誕200周年を祝ってフランス で発行された切手である。パスツールはフランスの通常切手にも描かれており、また世界各国でもパスツールを描いた切手が発行され、切手に描かれた科学者の筆頭であろう。特に、通常切手に描かれるというのは、郵趣家から見ると大変な偉業である。
切手の意匠は中央にパスツールの肖像が描かれ、右の背景にパスツール研究所が配置されている。右下に、生年と没年が記されており、上部にはフランス と切手の価格がユーロで示されている。
ルイ・パスツールの業績は化学、発酵学、細菌学、免疫学など非常に幅広い。 医学の分野では、狂犬病ワクチンの開発などで知られるが、最も重要なことは、細菌学、免疫学の黎明期にあたり、 生命の自然発生説を否定し、微生物学、 免疫学の基礎を形成したことにある。 ドイツのロベルト・コッホと並び称せら れることが多く、わが国においてはドイ ツ医学を採用したこともあり、コッホに 比べて知られることが少ないかもしれない。
パスツール研究所は今もフランスの 医学研究の中心として活動している。 フランスにおけるパスツール人気の源は、実のところ、よくわからない。フランス通の人に国民的英雄と敬愛される理由を教えてもらいたい。
月刊カレントテラピーVol.41 No.6
機能性消化管障害の治療戦略
「全国障害者評議会統合」記念切手
発行国チリ
表紙の切手は、チリで1992年に発行されたもので、「全国障害者評議会の統合」を記念している。意匠は、最上部にINTEGREMOSNOS(統合する)の文字が強く配置され、下部には4人の障害者がシルエットで表現され、中央から上部には大地と空と雲が描かれている。中心には太陽(月のようにもみえるが)が象徴的にすべてを照らしている。
わが国では,障害者基本法(昭和45年法律第84号)において、「『障害者』とは、身体障害、知的障害又は精神障害があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう。」と定義している。もちろん身体障害のなかには、視覚障害、聴覚障害、言語障害など多くの個別の障害が含まれ、知的障害あるいは精神障害のなかにも、発達障害や精神疾患など多くの病態・状態が含まれる。この切手が発行された意図についての詳細は知る由もないが、今から30年以上前に、障害者に対し差別がなく生きられる社会を目指したものと受け止めると、その先進性に驚かされる。
チリは、周知のごとく、南米大陸の西岸に位置する細長い国である。ちょうど、日本の裏側になる。1818年にスペインより独立し、1990年の軍事独裁政権崩壊後は、ラテンアメリカでは最も経済・生活水準が安定した国と言われた。この切手が発行されたころである。
月刊カレントテラピーVol.41 No.5
高血圧の最近の治療戦略 ―近未来の展望―
シンガポール家庭医大学創立50周年記念
発行国シンガポール
表紙の切手は、2021年6月30日にシンガポールで発行された「シンガポール家庭医大学創立50周年」を記念する切手である。6種類の切手が小型シートに配置される形で発行され、いずれも総合診療医や家庭医が日常行っている診療行為、すなわち高齢者診療や予防接種、血圧測定、小外科手術などが描かれている。予防、種の切手は昨年2月の家庭医療の特集時に表紙を飾った。今回取り上げた切手は、上部に医師が頭頸部の診察を行っている風景、中央部では医師が血圧を測定している風景、下部に発行の趣旨や国名、価格などが書かれている。
シンガポールの家庭医大学は一般開業医のグループによって1971年に設立された。この大学の使命として、家庭医学の進歩に尽力するとともに、教育と普及活動を通じて医師のレベルアップに精力的に取り組んできた。同様の趣旨で、わが国では自治医科大学がほぼ同じ1972年に設立され、へき地をはじめとする医療の乏しい地域に派遣し貢献している。また、わが国でも総合診療専門医の制度が整備され、まだまだ少ないものの、狭い専門領域ではなく広く予防医療から終末期医療までを見る医師が育成されてきている。これらの総合診療専門医は、医療資源の乏しい地域だけでなく、都会の家庭医療、あるいは総合病院の病院総合診療医としての活躍が期待されている。
月刊カレントテラピーVol.41 No.4
変わりゆく冠動脈疾患診療 ―診断と治療のパラダイムシフトを理解する―
冠動脈が描かれた心臓
発行国エジプト
表紙の切手は1992年エジプトで発行されたものである。意匠は中央に冠動脈が明確に描かれた心臓の図があり、背景に心電図が描かれている。さらに、左上にWHOのマーク、右上に発行国エジプトの文字と、発行年が記載されている。中央下部にアラビア文字が大きく描かれているが、残念ながら読めない。中央の心臓の冠動脈は,前下行枝と左回旋枝がよくわかり、切手に描かれる心臓のなかでは非常に正確な部類に入ると思われる。一方、背景の心電図は波形が乱れており、心筋梗塞やその他の重大な不整脈を疑わせるものでリアリティにかけているように思う。
1992 年の世界保健デーのテーマは「Heartbeat,The Rhythm of Health」であり、おそらくそれにちなんだものであろう。本誌の2020年8月号の表紙でサウジアラビアの切手を紹介したが、それと意匠が非常によく似ている。中東のイスラム諸国が連携して、冠動脈疾患や不整脈の予防のための社会啓発の一環として発行されたものと思われる。
エジプトは1990年代、世界で最も肥満率の高い国であったらしい。それは、体重の重い女性ほどもてはやされる文化に原因があるとする意見もある。運動習慣の文化がないなかで、肥満が多くなればおそらく冠動脈疾患も多かったと想像される。
月刊カレントテラピーVol.41 No.3
医療におけるロボット・AIの活用
カナダの臓器移植啓発切手
発行国カナダ
表紙の切手は2022 年4月7日カナダで発行された臓器移植啓発の切手。意匠は中央に2人の女性が描かれ、全体がハートの形になっている。また、お互いの腕が相手の心臓と思われる星型を掴んでいる。また多くの臓器が、デザインされており、全体として多くの臓器や組織が移植可能であることを示している。右側にフランス語で、左側に英語で、「臓器と組織の提供:命をあげる」とキャッチコピーが書かれている。注目すべきは、切手の価格が書かれていないことで、おそらく将来価格が上がっても1通のはがき、封書に使えることになっていると思われる。販売は10枚セットで寄付金を加えた価格で販売されている。
一人の脳死臓器提供者から最大8人に臓器移植ができる。すなわち心臓、肺臓(2)、肝臓,膵臓,腎臓(2)、小腸である。また、組織移植は心臓弁、血管、皮膚、骨、膵臓組織(膵島)、角膜がある。
わが国で臓器提供を待っている患者は腎臓が14,000人、心臓が900人程度ではあるが、年間の脳死臓器提供者は100人前後で、先進国では極めて少ない。わが国においてもこのような意識啓発切手を発行することが望まれる。
月刊カレントテラピーVol.41 No.2
心筋炎 ―診断・治療の最新動向―
心臓移植
発行国ドイツ
表紙の切手は2022年6月ドイツで発行された心臓移植を振興する目的で発行された切手。意匠は中心に二つの手の重なりの上に心臓(ハート)が乗っているデザインで、左に臓器移植の文字、右には国名と2次元バーコードが書かれている。これを読み込むとドイツ郵政のホームページに誘導され、切手の購入方法がわかる。
臓器移植に関して、歴史を紐解くとドイツも日本も同じ1997年に臓器移植法が制定されている。ほぼ同じ内容であるが、ドイツでは脳死は人の死であると明記されているのに対して、日本は臓器移植の意思のある場合に限って脳死を人の死とするとされている点が大きな違いである。日本では、臓器提供件数は年々少しずつ増加し、2019年には脳死97 例、心臓死28 例の提供があったが、その後コロナ禍の影響で減少した。人口100万人あたりの臓器提供者数を比較すると、日本は0.62であり、ドイツは11. 2である。この違いは、文化や死生観の違いなどが挙げられるが、わが国においてもキャンペーン目的の記念切手を発行するなど広報活動が必要と思われる。
月刊カレントテラピーVol.41 No.1
老年期のメンタルヘルス ―人生100年時代のこころの健康を守る―
中国の科学者 宋応星
発行国中華人民共和国
表紙の切手は中華人民共和国で2018年5月に「中国古代科学者と著作(1)」を記念する切手4枚セットとして発行されたなかの一枚である。意匠は中央に「宋応星」と助手と思われる女性が描かれている。
宋応星は明代から清代初期にかけて活躍した中国では有名な科学者である。1587年に江西省南昌府奉新県に生まれたとされ、没年は1666年頃とされるが詳細は不明である。万暦43年(1615年)に郷試に合格し、その後は地方役人などを歴任した。彼は、農業と手工芸品の生産に関する科学的調査と研究を行った。自然科学のみならず人文科学のさまざまな分野を含み、代表的な著作である『天工開物』は「中国の17世紀の工芸百科事典」として知られる。「天工」は自然の巧み、「開物」は人間の巧みを意味する。『天工開物』は図版入りの産業技術書で全18巻の三部構成となっており、1637年(崇禎10年)に刊行された。内容は、農業技術、機械、レンガ、さらに陶磁器などの手工芸品など、18の項目について詳細な説明がなされている。1644年に明が滅亡すると宋応星は清朝に仕官せず生涯を終えた。
中国の科学、あるいは日本を含めた東洋の科学についてはあまり知られていないが、実際は西洋のものに劣らないレベルにあったように思う。ただ、人文系の思想や、哲学のほうが今に残っていて、科学的思考で劣ると誤解されているように思う。東洋医学を含め東洋の科学をもっと知ることも重要であろう。
月刊カレントテラピーVol.40 No.12
災害医療 ―今後の災害医療を考える―
国境なき医師団設立50周年記念
発行国ドイツ連邦共和国
表紙の切手は、2021年に国境なき医師団設立50周年を記念してドイツ連邦共和国から発行された切手。意匠は国境なき医師団のロゴとフランス語、アラビア語、ドイツ語で「国境なき医師団」と書かれている。
国境なき医師団Médecins SansFrontières(伝統的にフランス語で表記され、略称はMSF)は、1971年にフランスの医師たちのグループにより設立された非政府組織で、国際的緊急医療団体として広く活躍し、国際社会にも認められている。そのため、MSFのロゴのついた車両などは赤十字(赤新月)と同様、攻撃しない、攻撃されないというのが国際社会のルールになっている。戦闘地域での医療支援をはじめとする国際援助分野における功績により、1999年にノーベル平和賞を受賞した。
日本では1992年に結成され、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災などで活躍している。医学教育のなかでもその活動は報告されており、MSFをはじめとする国際医療支援に参画を志す医学生、看護学生も多い。
なぜ、ドイツ連邦共和国から発行されたのかはわからないが、NPO法人にこのような顕彰を行うことに「国家の品格」が表れる気がする。
月刊カレントテラピーVol.40 No.11
肺炎の最近の動向 ―感染症から特殊な肺炎まで―
結核撲滅キャンペーン
発行国北マケドニア
表紙の切手は北マケドニアから2021年に発行された結核撲滅のキャンペーン切手。意匠は上に赤十字のマークと北マケドニア赤十字の文字が書かれている。その下には結核撲滅週間の2021年9月14~21日が明示され、さらに、結核と戦う週、結核のない世界へと2つの公用語(おそらく、マケドニア語とアルバニア語)と英語が併記されている。切手の中心部には世界地図を背景に両手掌に支えられた両肺が描かれている。右肺は、気管と気管支が描かれている。なお、北マケドニアの結核の罹患率は人口10万人あたり約12人で、日本とほぼ同じである。
北マケドニアは旧ユーゴスラビアの国家で,ユーゴスラビア崩壊に伴い1991年に独立した。当初はマケドニア共和国という国名であったが、実際はマケドニア地域の北部のみであり、隣国ギリシャとの軋轢もあり、2019年から北マケドニア共和国となった。
毎年のように、多くの国から結核撲滅キャンペーン切手が発行されている。わが国では、結核は過去の病気と思われがちであるが、世界的に見れば、マラリアと並んで極めて重要な感染症である。エイズと結核の合併、多剤耐性結核菌など解決されなければならない課題も多い。
月刊カレントテラピーVol.40 No.10
身体科と精神科の連携 ―身体科に必要な精神疾患の基礎知識―
シルヴァーノ・アリエティ
発行国イタリア
表紙の切手は2014年にイタリアで発行されたシルヴァーノ・アリエティ(Silvano Arieti,1914 -1981)の肖像切手。おそらく生誕100周年を記念して発行されたものと思われる。意匠はシルヴァーノ・アリエティの肖像と、下部に代表的著作である『Interpretation of Schizophrenia』が描かれている。
シルヴァーノ・アリエティはイタリアのピサ生まれの精神科医である。イタリアの大学を卒業後に、イタリアの反ユダヤ政策のため米国にわたり、精神分析学派に学び、原点回帰型の「ネオフロイト学派」に属した。臨床に基盤を置く精神分析家であり、統合失調症に有効な精神分析的技法の開発と検証に貢献した。当時の統合失調症の権威となり、特に「統合失調症の心理分析」を中心に、「統合失調症の経過・予後・転帰」を経験主義的に記述したという功績もある。
日本においてもアリエティの代表著作の邦訳書が数多く出版されている。切手に描かれている著作は『精神分裂病の心理』というタイトルで1958年に上梓された。
月刊カレントテラピーVol.40 No.9
早朝・夜間高血圧の徹底管理 ―パーフェクト24時間血圧コントロールを目指して―
世界保健デー
発行国イラン
イランで発行された世界保健デーの切手。2013年4月7日発行で、この年は高血圧対策が主題とされた。切手は2種類が連刷された小型シートで発行され、一枚は2014年11月発行の表紙の切手で紹介した。今回は、もう一枚のほうを紹介する。なお、小型シートのタイトルは、「World Health Day - Stay healthy:Check your boold pressure」とある。
今月号の表紙で紹介した切手は走る人間と心電図を描いている。心電図が突然始まっていることやT波が2相性なのが医学的には気になるが、心電図の切手というのは面白い。
最近は腕時計のような機器で、血圧や心電図も測定できるものが出てきている。10年前の世界保健デーで叫ばれたことが現実になるのは目覚ましい進歩と言えるのではないだろうか。ただ、測定した結果をどのように解釈し、食生活や運動習慣などの行動変容にどのように反映させるかが今後の課題だろう。
月刊カレントテラピーVol.40 No.8
コロナ感染症の後遺症
コロナ撲滅キャンペーン
発行国ジョージア
表紙の切手は2020年にジョージアで発行されたコロナ撲滅キャンペーン切手。意匠は右半分に白、青、赤の3色のコロナウィルスが描かれ、左側に、ジョージアの国旗を背に男女成人と子供の3人がそのウィルスを押し返している様子が描かれている。右下には大きく「StopCoV」の文字と額面が記載されている。額面の金額とは別に寄付金が1ユーロついた、寄付金切手であると思われる。
ジョージアのコロナの状況はわからないが、わが国では、2022年7月20日現在、東京では毎日1万人以上、全国では毎日3万人以上の新規感染が報告され、2022年1月にピークであったオミクロン株による第6波が終わり、BA. 5による第7波が襲来している状況で、コロナウイルスパンデミックがいつ完全に収束するのか見通しのつかない状況にある。
ジョージアはかつてはロシア帝国に属し、ロシア革命の後は、ソビエト連邦の構成国のひとつであったが、1991年にソビエト崩壊を機に独立した。しかし、いまだに新ロシアの南オセチアとアブハジアの2地域が事実上の独立状態となっており、ロシアなど一部の国から国家承認を受けている。否が応にもウクライナの現在と重ねて考えてしまう状況である。地理的には,コーカサス山脈の南麓、黒海の東岸、カスピ海の西側に位置する。シルクロードの西端にあたり、数多くの民族が行き交う交通の要衝であった。温暖な気候を利用したワイン生産の盛んな国である。中央部のゴリは、旧ソビエト連邦の最高指導者・独裁者であったヨシフ・スターリンの出身地であり、ムツケタは大相撲の元大関栃ノ心の出身地でもある。
月刊カレントテラピーVol.40 No.7
頸動脈病変の臨床 ―その診断と治療に必要な知識―
心臓を描いた切手
発行国カメルーン
表紙の切手は、1973年にカメルーンで発行された「世界保健機関25周年」を記念する切手で、額面は50フランである。意匠は中央に「LE COEUR AU COEUR LA SANTE(健康の中心にある心)」と書かれた帯で、左上と右下に分けられ、それぞれに心臓が描かれている。色が赤と青に分けられているのは動脈と静脈を意識したものかもしれない。上下にカメルーンの国名が書かれ、下部にはカメルーン共和国25周年記念と記されている。ただし、心臓の絵も動静脈の起始部もはっきりせず、解剖学的に誤っており、大血管に至っては動脈弓のようなものが2つも書かれていたり、肺循環がまったくなかったり、かなりいい加減なものである。
世界保健機関(WHO)は1948年4月7日に設立され,国連システムのなかにあって保健について調整する機関である。例えば、WHO憲章において、健康の定義として病気の有無ではなく、肉体的、精神的、社会的に満たされた状態にあることとし、差別されることなく健康に恵まれることが基本的人権であるとしている。世界保健総会は毎年開かれ,194全加盟国と地域の代表が出席する。4月7日は世界保健デーとされている。
カメルーン共和国は1960~1961年にかけ、大部分はフランスから、一部は英国から独立し、連合共和国となった国家である。カメルーンの健康問題は感染症が最も大きな課題であり、マラリア、AIDSに加え、黄熱病の流行地域でもある。また風土病もあり、住血吸虫症がある。
月刊カレントテラピーVol.40 No.6
見逃さない! 潜んでいる血液疾患 ―気づきのためのポイント集―
献血促進
発行国フランス
表紙の切手は1988年にフランスで発行された献血促進のための切手。意匠は中央に血液が一滴描かれ、上部に「DON DU SANG」と大きく書かれている。デザイン性の高いおしゃれな切手である。献血促進のための切手は、赤十字の切手と同様に多くの国で発行されている。わが国での献血は日本赤十字社の業務となっているが、国によって仕組みは異なっている。
献血の切手は,血液型の発見者であるカール・ラントシュタイナー(KarlLandsteiner,1868 -1943)を描いたものが多い。いずれ機会があれば紹介したい。ラントシュタイナーは1900年にABO式血液型を発見し、1930年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。
輸血療法はドナーと受血者を直接つなぐ原始的なものから始まり、現在は成分輸血が主流となり、細胞移植あるいは組織移植の概念でとらえるべきものとなっている。再生医療や人工臓器の研究対象となることが多いが、残念ながらまだ実用化には至っておらず、いまだに献血に依存しなければならない状況である。
月刊カレントテラピーVol.40 No.5
フレイル予防によるわが国の健康長寿戦略 ―産学官民協働による健康長寿まちづくり―
髙久史麿先生
発行国創刊30周年特別号の表紙用に編集部でデザイン
カレントテラピーの創刊時より今号まで監修を務めていただいた髙久史麿先生ご逝去の報に接し、驚きと痛惜の念を禁じ得ません。本誌にとってかけがえのない柱石となる存在であり、40年にわたり慈父のごとき愛情をもって、熱心にご指導をいただきましたことを、編集部一同、衷心より御礼申し上げます。
今号の表紙は、故人を偲び,髙久史麿先生をモチーフとした切手を採用しました。本切手は創刊30周年特別号の表紙用に編集部でデザインしたもので、日本郵便のオリジナル切手作成サービスを用いてシート化し、記念として監修の先生方にお渡ししたものとなります。
創刊30周年特別号は「これからの日本の医療」という壮大な特集テーマでした。記念座談会の席上では、髙久先生が今後の医療の展望を笑顔で語っていたことを思い出します。40周年にあたる本年も、集大成となるような企画とすべく特集案を練っていましたが、ご体調のこともあり、ついに実現することができなかったのは痛恨の極みです。ご逝去を受け、編集部も深い悲しみの中にありますが、「臨床に役立つ最新の情報を医療従事者の方々にいち早くお届けする」という髙久先生の理想を忘れず、今後もよりよい誌面を作り続けてゆくことで、ご恩に報いることができればと考えております。
髙久史麿先生の長年にわたるご指導に感謝し,心よりご冥福をお祈り申し上げます。
月刊カレントテラピーVol.40 No.4
多職種連携のための タスクシフティングを考える ―効率的な医療提供のために―
青少年と家庭
発行国香港
表紙の切手は、2019 年4月に香港郵政から発行された「博愛医院100周年」を記念する切手。4種類の切手が連刷されたものの一枚である。この切手には「青少年及家庭服務」と書かれており、青少年と家庭に対するサービスという意味である。いずれ紹介することもあるかもしれないが、以前紹介した「中西醫療服務」以外の残り2枚は「教育服務」、「長者服務」と書かれており、それぞれ中国医学と西洋医学の医療サービス、教育の提供、高齢者サービスを示し、博愛医院の使命を表している。
切手の意匠は上部に愛という大きな字と、中国語と英語で発行の趣旨が書かれ、中段には4人の人が頭を中心に向ける図案がカラフルに描かれている。下段は博愛医院の使命と,香港郵政の文字、額面価格が中国語と英語で書かれている。
ご存知のように、香港は今非常に困難な状況にある。香港の正式名称は中華人民共和国香港特別行政区である。1839年のアヘン戦争で英国が勝利し、1842年の南京条約で香港島が永久割譲され英国の植民地となり、150年以上経た後、1997 年7月、中華人民共和国への返還および譲渡、香港特別行政区政府が発足した。香港基本法により50年間一国二制度が維持されるにもかかわらず、中国本土が統制を強め、2019年の「逃亡犯条例改正案」をめぐるデモ、争乱や、香港民主化デモなどが続いた。2020年7月、香港国家安全維持法が施行され民主化は抑圧されている。そんななかでも、香港独自の郵便切手が発行され続けることを期待している。
月刊カレントテラピーVol.40 No.3
脳梗塞 ―急性期治療の進歩と今後の課題―
スウェーデンの福祉切手
発行国スウェーデン
表紙の切手は1980年4月22日スウェーデン王国から発行された「ケア」と題する切手である。意匠は老人と思われる大きな手と子供の手が繋がっているシンプルなもの。色も茶色の単色である。印刷は凸版印刷で、細かい彫刻のような暖かさを感じさせている。
わが国では、therapyとcareを、それぞれ治療と介護と使い分けているようであるが、この切手のタイトルであるcareはむしろそれらをすべて包含した意味で使われていると思う。この図案を日本語に当てはめると、「てあて」がいいのではないかと思う。
この切手には、上下には目打ち(切り取るための穴の列)があるが、両側にはそれがない。おそらく、切手の自動販売機にロール状に収められたためと思われる。また、このことから、この切手は記念切手ではなく、通常切手として使用されたものと思われる。医療福祉を題材とした通常切手はあまりなく、福祉で有名なスウェーデンらしい。
スウェーデンの医療福祉は高福祉高負担型で医療保険ではなく、税金で賄われている。OECDのなかでも規範的制度と位置づけられている。
月刊カレントテラピーVol.40 No.2
家庭医療 ―総合診療に続くサブスペシャルティとして―
シンガポールの家庭医
発行国シンガポール
表紙の切手は、2021年にシンガポールで発行された「シンガポール家庭医大学創立50周年」を記念する切手の一枚。6種類の切手が発行され、いずれにも家庭医が日常行っている診療行為、すなわち高齢者診療や予防接種,血圧測定、小外科手術などが描かれている。取り上げた切手には、右手前に小児の予防接種と思われるシーンと、左奥に高齢者の診察シーンが描かれている。
シンガポールの家庭医大学は一般開業医のグループによって1971年に設立された。この大学の使命として、家庭医学の進歩に取り組み、教育と普及活動を通じて医師のレベルアップに精力的に取り組んできた。長年、訓練を受けた家庭医は、プライマリ・ケア、地域病院、さらには一般病院でさえ、さまざまな状況でシンガポールの地域社会に奉仕している。細かく別れた専門分野だけを診療する専門医に対して、総合的に診療する医師を、総合医とか一般医という。国によっては彼らが広く働く場所から家庭医と呼んでいる。その詳細はこの特集に詳しいが、総合医の養成が地域での医師不足の解消に役立つことは衆目の一致するところであり、シンガポールでの成功例は他の国にとって学びが多いと思われる。
シンガポール共和国は典型的な都市国家であり、面積は東京23区とほぼ同じで、いわゆる僻地医療はない。しかし、家庭医は必要であり、その活躍により病院への患者集中が防がれていると思われる。
月刊カレントテラピーVol.40 No.1
CKDと透析療法
医療用チューブ
発行国オーランド
2020年にフィンランドの自治州であるオーランド自治政府から、医療用途向けのポリマーチューブの製造における世界的リーダーであり、オーランドで最大の企業のOptinovaグループを宣伝する切手が発行された。ただし、額面がないので、シールである可能性がある。
意匠は多くのチューブの断面を描いたもので、左上にオーランド郵政と書かれている。Optinovaグループは、押出成形ソリューションの技術で特殊チューブの高度な精密製造を行っている。製品は、ペースメーカー、カニューレ、透析カテーテルなどの医療用製品だけでなく、消火システム、熱交換器、ブレーキケーブルなど、多くの製品に使用されている。
オーランド諸島はバルト海、ボスニア湾の入り口に位置する6,500を超える島々からなるフィンランドの自治領であるが、住民のほとんどはスウェーデン系で、公用語はスウェーデン語。自治政府の旗はスウェーデンの国旗の意匠である青地に黄色の十字架に、フィンランドの国章に使用されている赤を加味したものとなっている。
額面金額が描かれていないスタンプを見かけることがある。封印の際に用いられるシールであることが多い。複十字シールのように収集の対象になることもままある。また、国によっては額面のないものは封書に用いることができる切手であることがある。紹介したスタンプがどちらに属しているかは定かではない。
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