カレントテラピー 37-1 サンプル page 28/32
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カレントテラピー 37-1 サンプル
Current Therapy 2019 Vol.37 No.1 9595サルコペニアとNAFLD/NASHJA広島総合病院肝臓内科主任部長 兵庫秀幸サルコペニアとは,ギリシア語で筋肉を意味するsarcoと,減少を意味するpeniaを組み合わせた造語で,1989年にRosenbergにより初めて提唱された概念である.近年では,筋肉量の低下に加え,筋力の低下あるいは身体機能の低下といった筋肉の質の低下がみられるものをサルコペニアと定義している.Asian WorkingGroup for Sarcopenia(AWGS)のサルコペニア診断基準のカットオフ値は,身体能力(歩行速度≦0.8m/s),筋力(握力;男性<26kg,女性<18kg),筋肉量〔二重エネルギーX線吸収法(dual energy X-ray absorptiometry:DEXA)で男性は≦7.0kg/m2,女性は≦5.4kg/m2,生体インピーダンス分析(bioimpedanceanalysis:BIA)で男性は≦7.0kg/m2,女性は≦5.7kg/m2〕とされている.サルコペニアは加齢以外に原因がない一次性サルコペニアと,原因が明らかな二次性サルコペニア〔長期臥床をはじめとする活動性の低下によるもの,臓器不全(心臓,肝臓,腎臓など)や悪性腫瘍,内分泌疾患など基礎疾患に起因するもの,栄養不良によるもの〕に分類される.肝疾患,ことに肝硬変は二次性サルコペニアをきたす基礎疾患のひとつとして知られ,サルコペニアの併存は生活の質(qualityof life:QOL)の低下や死などの重篤な転帰のリスク因子となる.非アルコール性脂肪性肝疾患/非アルコール性脂肪肝炎(NAFLD/NASH)という肝疾患は肥満・内臓肥満を併せ持つことが多く,過栄養状態を思い浮かべる.そのため,サルコペニアとの関連が一見ないように思える.一般的に,サルコペニアは肝疾患に起こりやすく,そのQOLや予後を悪化させる.その機序にかかわっている要因として,分岐鎖アミノ酸の減少,インスリン分泌低下やインスリン抵抗性,成長ホルモンの低下,インスリン様成長因子(insulin-like growth factor-1:IGF -1)低下,ミオスタチン高値,テストステロン低下,ビタミンD低下,炎症性サイトカイン増加などが知られている.NAFLD/NASHに起因する肝硬変の場合,このような因子が複雑に関連していると考えられる.つまり,肝硬変になった,あるいは肝硬変に向かっているためにサルコペニアによりなりやすく,サルコペニアを合併してしまうと予後やQOLに影響するということになる.NAFLD/NASHでは,肝硬変になっていないにもかかわらずサルコペニア,あるいはプレサルコペニアの併存がある.サルコペニアと(内臓)肥満が合併するサルコペニア肥満と呼ばれ,インスリン抵抗性,炎症,酸化ストレスなどが肥満とサルコペニアとを結びつける機序として知られ,身体機能障害のみならず代謝障害や心血管疾患リスクが高いと考えられている.同様に,サルコペニア肥満はNAFLD/NASHの病態を促進し,肝硬変へ導く速度を早くすると考えられる.サルコペニアは肝疾患の結果でもあり原因にもなるということで,いずれの状況においても筋肉の維持(質,量)を目指すことは生命予後にも関係するため重要である.NAFLDとNASHの現況と展望─ 国民病となったNAFLD/NASHの疾患概念の変遷と問題点