カレントテラピー 37-1 サンプル page 23/32
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カレントテラピー 37-1 サンプル
90 Current Therapy 2019 Vol.37 No.190Ⅰ はじめに非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)は,さまざまな臓器・細胞ネットワークのなかで代謝と炎症・免疫,細胞死・増殖シグナルが交錯しあう,きわめて複雑な病態を呈する疾患である1).NASH治療の最終目標は長期予後・生活の質(QOL)の改善であるが,NASH患者では高率に肥満・糖尿病・動脈硬化を合併し,病態も複雑であるため,何をエンドポイントに定めるかで治療戦略は異なる.非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fattyliver disease:NAFLD)/NASHでは肝炎・肝線維化を経て肝硬変・肝不全・肝癌へと進行し,死に至る可能性がある点が問題となっている.AnguloらはNAFLD/NASHの予後規定因子として,バルーニングではなく高度線維化の有無を提唱した2).NAFLD/NASHによる肝関連死を減らすという観点から考えると,①線維化を有するNASHでは,線維化の改善と肝発癌抑制,②線維化なし~軽度線維化のNASHでは,線維化の進行阻止とNASH活動性の改善,が当面の治療目標となるだろう.現在,脂肪肝やインスリン抵抗性,脂肪毒性や高血糖などによるメタボリックストレスの是正,バルーニング・炎症・線維化の是正がNAFLD/NASHの治療標的として挙げられ,これらに対する新薬がそれぞれ開発されている(図1).そのなかで,第Ⅲ相ランダム化比較試験(RCT)に進んでいる4剤を中心に,その作用機序や有効性を概説したい.Ⅱ ElafibranorNASHの治療薬としてさまざまな核内受容体のリガンドが注目されている1),3).例えば糖尿病合併NASH新薬の開発状況田中直樹** 信州大学医学部代謝制御学准教授NAFLDとNASHの現況と展望─ 国民病となったNAFLD/NASHの疾患概念の変遷と問題点非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)の増加が大きな社会問題となりつつある昨今,さまざまなNASH治療薬が開発され,臨床治験が進行中である.NASHの病態はきわめて複雑であるため,単剤で有効性が証明された薬剤は少ない.そのなかでも Obeticholic acid( Farnesoid X受容体刺激薬),Elafibranor (PPARα/δ受容体刺激薬),Cenicriviroc (ケモカイン受容体CCR2/CCR5阻害薬),Selonsertib( apoptosis signal-regulating kinase 1阻害薬)の4剤が第Ⅲ相試験へ進んでいる.近い将来,これらの薬剤が臨床現場で使用できる可能性が高く,NASHの組織学的改善や線維化の軽減,そしてNASH患者の予後改善が期待される.a b s t r a c t