カレントテラピー 37-1 サンプル

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72 Current Therapy 2019 Vol.37 No.172Ⅰ はじめに非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fattyliver disease:NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)の主な治療法は大きく分けて減量(食事療法,運動療法,減量手術)と薬物療法の2つに分類される.本稿では2014年に日本消化器病学会から刊行されたガイドライン1),2016年に欧州肝臓学会(EASL),欧州糖尿病学会(EASD)および欧州肥満学会(EASO)により共同編集されたガイドライン2),2018年に米国肝臓学会(AASLD)を中心に公表されたガイダンス3)をもとにNAFLD/NASHの薬物療法について解説する.また,現在開発が行われている新規薬剤に関する概説は他稿に譲りたい.Ⅱ NAFLD/NASH発症の機序NAFLD/NASHの治療を理解するにはその病因を理解する必要がある.NAFLD発症の鍵となるのはインスリン抵抗性である.内臓脂肪組織に蓄積された中性脂肪はホルモン感受性リパーゼ(hormonesensitive lipase:HSL)により遊離脂肪酸に分解され,肝へ流入し,改めて肝細胞に中性脂肪として蓄積される.HSLの作用はインスリンにより抑制されるがインスリン抵抗性があるとその抑制が減弱し,結果として肝への遊離脂肪酸(free fatty acid:FFA)流入が増加することとなる.肝細胞に沈着した脂肪の60%以上が内臓脂肪細胞由来とされている.また,肝細胞内ではインスリン作用によりグルコースから中性脂肪がde novo に合成される.この経路はイン*1 三重大学医学部消化器肝臓内科/中央検査部講師*2 三重大学医学部消化器肝臓内科教授NAFLDとNASHの現況と展望─ 国民病となったNAFLD/NASHの疾患概念の変遷と問題点薬物療法杉本和史*1・竹井謙之*2非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)の治療法は大きく分けて減量と薬物治療がある.現在の治療の考え方は可能な限り組織学的診断を施行し,非アルコール性脂肪肝(nonalcoholicfatty liver:NAFL)であれば生活習慣の改善のみで様子を見るが,NASHと診断された場合はより積極的な治療介入が必要となる.NAFLD/NASHに対する特異的な治療薬は現時点では市場に存在せず,生命予後に関連する基礎疾患(2型糖尿病,高血圧,高コレステロール血症)の管理が主体となる.NASHに併存するこれらの疾患に対する治療薬の使用は日米欧それぞれのガイドラインの考え方に異なる点があり,十分な理解が必要である.また,NAFLとNASHは異なる疾患ではなく,双方向に移行を繰り返すことも知られているため,今後はNAFLに対する治療介入も見直す必要がある.