カレントテラピー 36-8 サンプル

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84 Current Therapy 2018 Vol.36 No.8812日本の結核の最近の動向─ 2020年に日本は結核低蔓延化を実現できるか? 臨床医に求められる対応基礎疾患を有する患者への潜在性結核感染症治療大阪府結核予防会大阪病院副院長 松本智成潜在性結核感染症治療前には,ツベルクリンもしくは抗原特異的インターフェロン-γ遊離検査(interferon-γ release assay:IGRA)による結核感染の確認および胸部X線等による活動性結核病変がないことの確認が重要である.日本結核病学会による『潜在性結核感染症治療指針』によると,積極的に潜在性結核感染症治療の検討を行う群にはHIV/AIDS,臓器移植,慢性腎不全による血液透析,最近2年以内の結核感染,胸部X線画像で治療が行われていない陳旧性肺結核を示唆する線維結節影,生物学的製剤使用が挙げられている.基礎疾患を有する患者に潜在性結核感染症治療を考慮する場合,上記のことを勘案しながら行う.潜在性結核感染症治療においてはイソニアジド5mg/kgを1日1回毎日6カ月間投与することが標準的な治療法であるが,リファンピシン10mg/kgを4カ月間行う方法もある.イソニアジドの代謝酵素としてNAT2 遺伝子が知られている.NAT2 遺伝子多型は3種類あり,日本人は欧米人と比較して代謝を促進するrapid accetylatorが多い.Rapidaccetylator遺伝子多型をもつ人はイソニアジドを服用しても代謝され,血中濃度が上がりづらいことが知られている.またその他の潜在性結核感染症治療を行っても結核発病する原因としてはコンプライアンス不良,つまり服薬していない.イソニアジド耐性菌に対する治療が挙げられる.したがって,潜在性結核感染症治療を行ったからといって完全に結核発病を抑えられるわけではない.また,slow accetylatorの遺伝子多型の場合,イソニアジド5mg/kg治療にて血中濃度が上昇し,肝機能障害が起こりやすいことも知られているので投与中の肝障害には注意する.特に肝疾患を有する場合は投与できない場合もある.世界保健機関(WHO)のガイドラインによるとHIV感染患者の結核高蔓延地域におけるイソニアジドによる潜在性結核感染症治療は少なくとも36カ月間と記載がある.しかもイソニアジド耐性患者が増えたというエビデンスもないという.つまり結核高蔓延地域においては投与間隔を伸ばすという考え方もあるが,日本においては一般的ではなく議論の分かれるところである.また免疫低下者においては抗結核薬が効果的に作用し,治療期間を6カ月よりもさらに短くできる可能性もある.このように潜在性結核感染症治療は,完全なものではなく特に免疫低下患者においては未解決な部分があり,今後の研究の発展を祈りたい.