カレントテラピー 36-7 サンプル page 16/32
このページは カレントテラピー 36-7 サンプル の電子ブックに掲載されている16ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。
概要:
カレントテラピー 36-7 サンプル
Current Therapy 2018 Vol.36 No.7 81687Ⅰ はじめに―六君子湯とは―六君子湯は,四シ君クン子シ湯トウと二ニ陳チン湯トウの合方であり,虚証の患者に使用される代表的な漢方方剤である1).構成生薬は,蒼朮,人参,半夏,茯苓,大棗,陳皮,甘草,生姜の8種類であるが,主薬(君薬)である人参,朮,茯苓,甘草,陳皮,半夏の6生薬より六君子湯と名付けられた.使用目標は,食欲不振,全身倦怠感,心窩部不快感や膨満感,心窩部振水音などである.適応疾患は,胃炎,胃アトニー,胃下垂消化不良,食欲不振などである1).漢方薬は証に基づいて処方すべきであるとされてきたが,近年,ランダム化比較試験(randomizedcontrolled trial:RCT)などの西洋医学的な手法でその有効性を証明した研究が増えており,六君子湯についても機能性ディスペプシア(Functional dyspepsia:FD)や胃食道逆流症(Gastroesophagealreflux disease:GERD)などの上部消化管疾患における臨床的有用性が報告されるようになった2),3).さらに,六君子湯が摂食ホルモンであるグレリンの分泌を亢進させるというユニークな特長をもつというわれわれの報告4)をきっかけとして,ヒト,動物個体あるいは細胞レベルで作用機序の解明が急速に進んでいる(図1,表)2),5).本稿では,上部消化管疾患における本剤の使い方と有効性,また最近明らかになってきた作用機序について述べる.* 北海道大学大学院薬学研究院臨床病態解析学教授上部消化管疾患の現況と今後の展望─病態・診断から治療を探る六君子湯と上部消化管疾患武田宏司*六リッ君クン子シ 湯トウは,蒼朮,人参,半夏,茯苓,大棗,陳皮,甘草,生姜の8種類の生薬で構成される代表的な方剤である.これまで,心窩部不快感や胃もたれなどの上部消化管症状や,食欲不振などに対して広く使用されてきた.近年,機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)や胃食道逆流症(gastro esophageal reflux disease:GERD),上部消化管手術後などにおける六君子湯の臨床的有用性を,ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)によって証明した研究が報告されるようになった.さらに,基礎的・臨床的検討から,六君子湯はグレリンの分泌を亢進させ,さまざまな病態における食欲不振を改善することが明らかにされている.たとえば,六君子湯およびその成分はセロトニン5-HT2B/5-HT2C受容体を阻害することにより,シスプラチンによって低下したグレリン分泌を回復させる.さらに,セロトニン受容体のみならず,消化管および脳内の複数の標的に作用することで,生体全体のグレリンシグナルを増強する薬剤であることが明らかになりつつある.