カレントテラピー 36-6 サンプル

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84 Current Therapy 2018 Vol.36 No.6586用いたメタアナリシス(1997)5),および10文献を解析したコクラン・レビュー(2009)6)が紹介され,消化酵素薬の投与では慢性膵炎の腹痛改善効果を認めなかったと結論している.ただし,解析に用いられた論文のなかで,軽症から中等症の膵障害がある慢性膵炎を対象に非腸溶性製剤を使用した場合,75%の症例で腹痛改善に有効性が認められたとしている7).このように,消化酵素薬腸溶性製剤は有痛性慢性膵炎の疼痛対策にはエビデンスレベルの高い報告はない.しかし,特殊なケースではその限りではなく8),腸溶性製剤でも服薬量を常用量ではなく症状に応じて自分で決めた群では,常用量群に比べて有意に腹痛改善効果を認めたとの報告がある9).わが国の『慢性膵炎診療ガイドライン2015』でも消化酵素薬の大量投与や高力価パンクレリパーゼによる疼痛緩和の可能性が記載されている1).米国消化器病学会(AGA)の『慢性膵炎疼痛治療ガイドライン』(1998)10)では,消化酵素薬が疼痛軽減作用をもつかは不明である11)が,慢性膵炎の疼痛には消化酵素薬を推奨するとしているとしており,わが国の『慢性膵炎診療ガイドライン2015』と類似の解釈がなされている.Ⅳ 膵外分泌機能不全に対する消化酵素薬先に述べた『慢性膵炎診療ガイドライン2015』1)でのパンクレリパーゼに対するもう1つのCQは【消化酵素薬は慢性膵炎の治療に有用か?】である.このCQに対するステートメントは「脂肪便と体重減少を伴う慢性膵炎患者には高力価の消化酵素薬による治療を行うことを推奨する」であり,推奨の強さ;1(合意率100%),エビデンスレベルAとなっている.脂肪便を有する慢性膵炎患者に対する消化酵素薬投与は有意に脂肪便重量を低下させることが知られている12).また,Armbrechtらは,慢性膵炎患者における脂肪と炭水化物の消化を改善させるには,大量の酵素補充が必要であることを示した13).多国間(ブルガリア・ポーランド・ロシア・セルビア・ウクライナ・米国)・多施設(27施設)で行われた外分泌不全を伴う慢性膵炎に対する高力価パンクレリパーゼ腸溶性製剤によるプラセボ対照無作為化二重盲検試験において,高力価パンクレリパーゼ腸溶性製剤は,脂肪・窒素吸収率を有意に改善させることが報告された14).本報告の6カ月間にわたる高力価パンクレリパーゼ内服続行による追跡調査(追跡率;94%)では,排便回数・便中脂肪排泄量・便中窒素排泄量や便の性状・お腹の張りの有意な改善が示されている15).上記は『慢性膵炎診療ガイドライン2015』の解説文に用いられた文献の検討結果であるが,その他の検討においても外分泌不全に対する高力価パンクレリパーゼ腸溶性製剤の治療の推奨度は高い16)~19).1994年にSmythらは高力価パンクレリパーゼ腸溶性製剤を12~15カ月内服したCFの小児15例に上行結腸狭窄を認めたと報告し,腸溶性コーティング剤による副作用が懸念された歴史的背景がある.しかし,現在は腸溶性コーティング剤の副作用は改善され,FDAも安全性が高い薬剤であると評価している20).Ⅴ おわりに本稿では,消化酵素薬の歴史を振り返り,わが国で2011年から登場した高力価パンクレリパーゼ腸溶性製剤(リパクレオンR)について,慢性膵炎治療を中心に概説した.リパクレオンRの有効成分は欧州の成熟メス豚の膵臓抽出物を原料としている.2018年現在,原料の継続的供給を懸念する声もあるため,「非代償期の慢性膵炎,膵切除,膵嚢胞線維症等を原疾患とする膵外分泌機能不全により,脂肪便等の症状を呈する患者に投与する」という本製剤の使用上の注意を念頭に置いて治療すべきと考える.参考文献1)日本消化器病学会編:慢性膵炎診療ガイドライン2015.南江堂,東京,20152)岡 卓志,春名成則,三木崇生ほか:膵外分泌機能不全患者におけるパンクレリパーゼ(リパクレオンR)の投与量別の有効性に影響を与える因子の検討.診療と新薬 54:555-564,20173)Hammer HF:Pancreatic exocrine insufficiency:diagnosticevaluation and replacement therapy with pancreatic