カレントテラピー 36-4 サンプル

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Current Therapy 2018 Vol.36 No.4 85Key words391睡眠時無呼吸と心不全九州大学病院睡眠時無呼吸センター 吉川智子九州大学病院睡眠時無呼吸センターセンター長 安藤眞一慢性心不全には睡眠呼吸障害(sleep disorderedbreathing:SDB)が高率に合併する(76%).一般の無呼吸外来では,睡眠中に気道が閉塞する閉塞性SDBが大半だが,心不全(heart failure:HF)患者では中枢性無呼吸の合併頻度が高く(40%),特にチェイン・ストークス型のSDB(cheyne stokesrespiration:CSR)が有名である.CSRは,心拍出量低下による血中酸素・CO2濃度変化の末梢化学受容体への伝達遅延や化学受容体感受性の亢進などにより生じる.一方,肺うっ血は肺のJ-受容器を刺激し,早く浅い呼吸を生じる.このように,HFの中枢性SDBのパターンや頻度はうっ血および心拍出量低下の程度等で異なり,また,治療により変化する.一方,HFでは,昼間に下肢に貯留した過剰体液が夜間に上半身に移動することで気道の狭窄やうっ血が強まり,閉塞性・中枢性SDBが高度化する.こうしたHFでの呼吸あるいはSDBと心臓の状態の密接な関連を利用して,HFのSDBや呼吸パターンから心拍出量やうっ血の程度を推定する試みもなされている.HFでは心機能低下がSDBを発生・増悪させるのみならず,閉塞性・中枢性を問わず,SDBによる夜間の低酸素血症を通じた頻回の覚醒・酸化ストレスや,閉塞性SDBでの胸腔内陰圧を通じた心負荷の増大は,最終的に交感神経の過剰な活性化を生じてHFを増悪させる可能性がある.HFでも閉塞性SDBに対しては持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure:CPAP)が使用されるが,CSRに対しては,一定の呼気終末陽圧に加え,減弱した自発呼吸を増強する目的で圧補助を加える順応性自動制御換気(adaptive servo ventilation:ASV)も2007年から使用されるようになった.ASVは,静脈還流量を減少させて肺うっ血や呼吸困難を改善させるのみならず,呼吸補助でCSRの改善を促す.ASVはHFに伴ううっ血改善には有効と考えられるが,CSR改善がHFの予後・症状改善に有効か否かに関しては,2015年に発表されたSERVE -HF試験において,高度の心機能低下に伴うCSR優位の患者でのASV治療で予後悪化が報告され,欧米ではこの目的での使用は原則中止された.本邦でも日本循環器学会・日本心不全学会からステートメントが発表されたが,本邦では,HFに対するASV治療を一概に禁止せず,状況に応じて慎重に使用し,可能であればCPAPに変更することとしている.以上のようにSDBとHFの関連は複雑で治療も単純ではないが,少なくとも酸素飽和度の高度の低下を伴うSDB,または,睡眠が著しく妨げられているSDBでは,積極的に治療を行う必要がある.ただし,健常人以上に,陽圧による静脈還流低下が心拍出量の過剰な低下をまねかないような配慮が必要である.