カレントテラピー 36-4 サンプル

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78 Current Therapy 2018 Vol.36 No.4384表である.最近の血管拡張薬seralaxinも同様な傾向であり,RELAX -AHF試験2)で1,200人ほどの患者において有意差のあった180日後の生存率もRELAX -AHF-2試験3()引用文献はデザイン論文)において6,600人で再度検証すると有意でなくなってしまい(欧州心臓病学会2017で発表),急性期薬剤のエビデンスを確立することはほとんど無理なのではないかとさえ思える.その意味でわが国のみで承認されている心房ナトリウム利尿ペプチド(ANP)製剤カルペリチドがエビデンスを確立したと言えないまま,グローバルに認知されず終わることも致し方ないのかも知れない.一方で慢性心不全治療薬にはかなりの生命予後を改善するエビデンスがある.とはいえ,実は最近高齢化とともに急速に増加している拡張不全(heartfailure with preserved ejection fraction:HFpEF)に対して予後を改善するデータのある薬剤はひとつもない.慢性心不全に予後改善効果のある薬剤は1980年代の終わりから2000年代初頭にかけてデータが得られてきたもので,いまさら述べるまでもないとは思うが,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB),ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA),β遮断薬であり,その対象は左室駆出率40%以下(時に35%以下)の収縮不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)ばかりである.これらの薬剤はすべて全死亡を30%程度減少させるという画期的な結果を大規模臨床試験で証明したものであり,いまでは収縮不全の患者でよほどの事情がなければ使用しなければならない標準治療となっている.この4剤は大きく分けるとレニン・アンジオテンシン系(RAS)の阻害薬3つと交感神経抑制薬の1つに分けられる.Ⅱ アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)まず,RASのほうであるが,アンジオテンシンⅡをはじめとしたRASが心不全の悪循環を司る悪役であると認識されてきたのは周知の通りである.しかしながら,生体内にはRASに拮抗する経路も活性化されており,その中にナトリウム利尿ペプチドファミリーが含まれていると考えられてきた.アンジオテンシンⅡなどのRASは血管収縮や体液貯留を引き起こす一方で,ANPやBNPなどのナトリウム利尿ペプチドは血管拡張作用とやや弱いもののナトリウム利尿作用もあり,血行動態的には明らかに拮抗する.長期的な心筋リモデリングという観点で言っても細胞増殖に働くRASに対してナトリウム利尿ペプチドはその反対に働く可能性が考えられる.すなわち,悪玉であるRASに対してナトリウム利尿ペプチドファミリーは善玉と思われてきた.上記のnesiritideが米国で大規模な臨床試験を経ずに承認されたのは,このようにアプリオリに良いものであるという考えがあったからであり,承認後にASCEND -HF試験でさほどの効果は期待できないということが検証されたのは大変な驚きをもって迎えられたのである.善玉投与だけではダメなら,悪玉抑制とのコンビネーションならば,ということで,以前ACE阻害とネプリライシン(NEP)阻害を併せもつomapatrilatが開発されACE阻害薬と比較されたことがあった. NEPは生体内に自然に存在するエンドペプチダーゼであり,ナトリウム利尿ペプチドファミリーを分解し非活性化してしまう.すなわちNEP阻害薬投与は善玉を活性化する可能性が高く,すでに証明されたACE阻害の効果を合わせれば,単にACEを阻害するより一層予後改善が期待できるのではないかと思われた.しかし,OVERTURE試験4)は残念な結果に終わり,omapatrilatにACE阻害薬エナラプリル以上の予後改善効果はなく,むしろomapatrilatは低血圧や血管浮腫などの副作用が多く発現し,開発中止となってしまった.このままこのアイデアは世に出ないと思われていたのであるが,ARBバルサルタンとNEP阻害薬sacubitrilの配合剤をつくることで,今まで一度も大規模臨床試験で負けたことのなかったエナラプリルに勝ったのが2014年のPARADIGM-HF試験5)である.この合剤sacubitril-valsartanはARBプラスNEP阻害薬でARNIと略称される.エナラプリルからの切り替えを適切に行うことにより,左室駆出率40%以下のHFrEF患者における生命予後を全死亡ですら16%減少させた.図1には一次エンドポイントである心血管