カレントテラピー 36-4 サンプル

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Current Therapy 2018 Vol.36 No.4 77383Ⅰ 心不全薬物治療エビデンスについての私の考え心不全の薬物治療は急性期と慢性期でそのゴールが異なる.すなわち,急性期には血行動態の速やかな安定化,および離床・リハビリを経た早期退院が求められるのに対して,慢性期では長期予後の改善が第一とされてきた.人間長生きすることが最大の目標ということでは異論がない時代が長く続いていたのである.しかし,その長生きに関して先進諸国ではほとんど飽和状態というほどに満たされていると言っても過言ではなく,単なる長生きではない健康長寿という概念が提唱されてきた.一定の生活の質(QOL)を保った生活を維持しつつ可能な限り長生きするということであるが,そのQOLのレベルをどこに設定するかなど問題は尽きない.時代はそのように超高齢社会に入って考え方も変貌してきているが,では心不全治療のゴールがどこに設定されるようになったかというと,実はあまり変わっていないのである.1990年代の大規模臨床試験華やかなりし頃は「全死亡」回避こそが最大の目標であった.それでも徐々にその目標は困難となり「死亡および心不全による再入院」が最近の臨床試験における一次エンドポイントとなってきた.心不全による再入院は高齢化社会における大きな問題であり,それを予防することは最近のトレンドに適ったものともいえるが,やはり死亡を回避するという視点は依然として強い.急性期に心不全治療薬の何を使用したら,長期的に生命予後がよくなるかということもずいぶん検証されたが,結局最初の非代償期2~3日に何を使用しようと大きな違いはないのではないかと思えるくらい,全くデータが出ない世界である.ASCEND-HF試験1)により否定された静注B -type natriuretic peptide(BNP)製剤nesiritideの生命予後改善効果はその代新たな治療薬のエビデンス(ARNI,Ivabradine,SGLT2阻害薬,その他)絹川弘一郎** 富山大学第二内科教授高齢者の心不全の早期発見・対策・治療─健康寿命の延伸に向けて収縮不全には以前からレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA),β遮断薬という予後を改善することが立証された標準治療があるが,最近アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)とIvabradineがそのラインナップに加わった.ARNIはアンジオテンシンⅡ阻害に加えて,善玉と想定されるナトリウム利尿ペプチドファミリーの活性化を期待するものである.Ivabradineは洞調律のみに有効であるが,β遮断薬で十分徐拍化が達成できない場合に有用であると考えられる.糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬が心不全予防に有効であることが最近報告され,今後は心不全治療自体にも有用であるかどうかの検証が待たれる.その他,いくつか新規開発中の心不全治療薬も紹介する.現在のunmet needsは収縮不全から拡張不全に移行しており,拡張不全に対する新規薬物治療は今後の課題である.a b s t r a c t