カレントテラピー 36-4 サンプル

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Current Therapy 2018 Vol.36 No.4 75代替療法381思われる.以上より,五苓散は浮腫を有する心不全症例で,利尿剤投与中,水分制限され口渇あり,尿量増加が得られない症例が適応と考えて良い.2 木防已湯原典である『金匱要略(痰飲病篇)』には「隔間ノ支飲,其ノ人喘満,心下痞堅,面色?黒,…木防已湯之ヲ主ル」と記載されている.わかりやすく現代語訳をすると,「胸水貯留し,呼吸困難,心窩部が硬くつかえて,チアノーゼなどの症状を有する症例には木防已湯を投与する」となり,まさに心不全と考えられる症例に対し古くから使用されていたことが推測される.次のような臨床報告がなされている.Yakuboらは,New York Heart Association(NYHA)Ⅱ~Ⅲ度の西洋医学的治療(ジギタリス,利尿薬,血管拡張薬)で症状が安定している心不全症例12例に対し木防已湯エキスを投与し,投与前後のNYHA,BNP,胸部X線上の心胸郭比,心臓超音波検査上の心駆出率を比較した.不整脈の出現にて試験を中止した2例を除いた10例中2例で著明な改善を得た11).また江崎らは,重症難治性心不全患者に対する木防已湯エキスを用いた後ろ向き試験にて,トルバプタンを含む西洋薬と機械的補助を用いても治療に難渋する治療抵抗性心不全症例12例に対し木防已湯エキスを投与し,臨床症状,BNP値,胸部レントゲン上の改善が得られたことを報告した12).作用機序についてはSatohらによりいくつかの基礎薬理学的知見が報告されている.単離モルモット乳頭筋における木防已湯の電気生理学的作用の検討によると,木防已湯,さらに含有生薬のひとつである防ボウ已イに含まれるシノメニンに抗不整脈作用,心筋保護作用があることが解明されている13).また,木防已湯は,弛緩状態の血管を収縮させ,緊張状態の血管では弛緩する.つまり,血管収縮・弛緩作用のバランスを取り,調整する14).このような基礎薬理学的知見からは,木防已湯の利水作用のみならず,心筋保護作用,抗不整脈作用,後負荷軽減作用なども期待される.3 真武湯真武湯は『傷寒論』を原典とする漢方薬である.もともとは「玄ゲン武ブ湯トウ」といい,中国四神のうち,北方を守る守護神,玄武をそのまま処方名としたものである.寒い北方の方角を象徴する名前から想像されるように,温めることを作用のひとつとする.また玄武は水を統御する神であり,水分を治める意味で名づけられたという15).漢方医学的には少陰病といって「但寝ていた方が良い」という程に新陳代謝の衰えた病態,かつ,水滞の諸症候を有する症例に対し用いられる.構成生薬の茯ブクリョウ苓・白ビャクジュツ朮・附ブシ子は利水剤として働く.附子はトリカブトの塊根であり,加熱することで減毒され薬として応用されたものである.附子は利水と同時に強力な熱薬(温める薬)であるため,暑がりの人,赤ら顔の人には用いない.西洋医学的に医療面接で「暑がりか,寒がりか」,「温刺激・冷刺激のどちらを好むか」などを聴取することは通常ないと思われるが,本稿を機会に心不全の日常診療に加えてみると良い.真武湯は寒がり,冷え症,温刺激を好む症例(こたつにあたっていたほうがよい,風呂に長く浸かっていると気持ちがよい,カイロを日常的に使用しているなど)に適応となる.具体的にはやせ形の女性,高齢者,β遮断薬服薬中の症例などによく見られる.β遮断薬は心不全症例に用いられる処方であるため,そのような眼でみると,冷えを伴う症例は循環器外来には数多いと考えられる.後期高齢者に対する真武湯を用いた臨床報告がなされている.山本らは治療抵抗性の後期高齢者の心不全症例2例(一例は重症大動脈弁狭窄症と肝細胞癌の合併例,もう一例は肺癌術後の心不全と誤嚥性肺炎の合併例)に対し,真武湯(煎液)を投与し,臨床症状,胸部X線他,検査所見の改善を得たことを報告した16).フレイルで冷えを伴う心不全症例に対し,真武湯は包括的な治療を行ううえで有用な補助治療となり得る.一方で,特に暑がりの症例に用いると副作用として心悸亢進,舌のしびれ,悪心などが生じることがあるため,用いる際には前述のように漢方医学的な視点からの問診が大変重要であるとともに,頻