カレントテラピー 36-4 サンプル

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74 Current Therapy 2018 Vol.36 No.4380は臍よりやや頭側辺りで腹部大動脈の拍動を良く触知することを示し,西洋医学的には腹部大動脈瘤がない限り重要視されないが,漢方医学では水滞,つまり循環血漿量の増加を鑑別に挙げる.その他,「めまい」,「立ちくらみ」,「水様性下痢」,などが挙げられている.水滞とは,西洋医学的な診断名を超え,身体の水分代謝一切の異常を包括する病態をいう.この病態の治療目的に「利水剤」といった種類の漢方薬を用いる.利水剤は利尿薬と異なり,体液分布の不均衡を改善させ,必要な水分は体外に排出しない3)とされる.この利水剤の特徴故に,西洋医学治療抵抗性の難治性心不全症例や,電解質の変動や血圧変動により利尿薬を一定量以上使用しにくい症例に対し,利水の作用を有する漢方薬が有用となり得る.五ゴ苓レイ散サンは代表的な利水剤で,浮腫の症例に保険適用となる.木モク防ボウ已イ湯トウは利水作用を有する漢方薬のなかで心不全に保険適用となっている.さらに,75歳以上の後期高齢者の慢性心不全の治療に関しては日本心不全学会ガイドライン委員会より『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』が策定されている4).そのなかでは高齢者症例の病態評価に当たっては,一般的な心評価のみならず,予後規定因子とされる低栄養状態5)やサルコペニア,フレイルを評価し,心不全の治療の一環として介入すべき問題として提唱している.Friedらによるフレイル診断基準では,①体重減少,②歩行速度低下,③筋力低下,④易疲労,⑤身体活動レベル低下の5項目中3項目該当した場合をフレイル,1~2項目該当した場合をプレ・フレイルと定義した6).高齢心不全患者における低栄養状態による骨格筋量低下,心不全の増悪と体液貯留増悪があいまって心臓悪液質に陥る悪循環を高齢者のフレイル・サイクルという7).高齢者心不全症例のフレイルを治療することはフレイル・サイクルの予防につながる.フレイルは漢方医学的には,体力・気力を補いたい病態,則ち「気虚」との病態ととらえることができる.私たちは親から「気」をもらって誕生し,呼吸や摂食によって日々「気」を補充して生きる活力を得ているというのが漢方の考えであるが,加齢そのものにより,また疾病による気の補充不足により,気虚という病態に陥る.西洋医学的に薬物治療の対象とならない病態である一方で,漢方では病態として扱い,対する薬物治療が存在する.フレイルに陥りやすい後期高齢者の慢性心不全は気虚を有すると考え漢方治療を検討して良い.利水作用に加え,気を補う補気作用を有する漢方薬として真シン武ブ湯トウが挙げられる.五苓散,木防已湯,真武湯の3つの漢方薬について以下に詳しく解説する.1 五苓散水滞の病に広く使われてきた漢方薬である.「渇して小便不利」,則ち口渇するものの尿量が少ないもの,を使用目標とされてきた.近年,心不全に対する五苓散の有効性に関し,下記のような症例報告がある.斎藤らは,後期高齢者の慢性腎不全に合併したうっ血性心不全症例を報告した.トルバプタンを含む利尿薬の使用に伴い腎機能が悪化したが,五苓散エキスを投薬後,腎機能増悪をきたすことなく心不全症状の改善が得られたとした8).また松井らは僧帽弁閉鎖不全,大動脈弁閉鎖不全による慢性心不全の91歳の症例への五苓散の投与を報告した.急性増悪後,治療目的に入院後,利尿薬増量中に低血圧,脳梗塞を合併した.さらなる利尿薬の投与が困難であったこと,口渇・浮腫・尿量減少を認めたことから五苓散エキスを投与したところ,血圧変動なく心不全徴候,口渇の改善が得られたとした9).いずれも後期高齢者で利尿薬の使用制限を生じた症例に用いられている点,かつ使用後に電解質,腎機能,血圧などに悪影響を与えず症状改善が得られた点が心不全治療において参考となる.五苓散に関しては作用機序に関する基礎的知見が得られている.礒濱らは基礎薬理学的実験により,五苓散,およびその構成生薬のひとつである蒼ソウ朮ジュツは,電解質の移動を介した作用ではなく,アクアポリンの水チャネル機能の抑制に基づき細胞膜水透過性抑制作用を示すことを明らかにした10).また前述のように五苓散の作用は浮腫など溢水傾向のある時だけに現れ,脱水状態では尿量に影響しないとされる3).これらの知見は五苓散の古くから知られる使用目標だけでなく,また前述の臨床的知見をも説明すると