カレントテラピー 36-4 サンプル

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Current Therapy 2018 Vol.36 No.4 73379Ⅰ はじめに慢性心不全とは「慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し,末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態であり,肺,体静脈系または両系にうっ血をきたし日常生活に障害を来した病態」と定義される.収縮性が低下した心不全に対しては心不全ステージ別に治療が検討される.年齢や併存疾患に応じた一般管理指導の他,薬物治療,病態に応じて心臓再同期療法,運動療法などの非薬物療法が行われる.薬物治療としてはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB),β遮断薬,抗アルドステロン薬,利尿薬,ジギタリス,経口強心薬などが用いられる1).近年慢性心不全薬物治療には革新的な進歩が生じ,患者の予後は飛躍的に改善した.このように,慢性心不全の治療においては,西洋医学的な治療が確立され,さらに進歩を続けていることは言うまでもない.一方,実臨床では,ガイドラインに沿った標準的治療によっても改善に至らない治療抵抗性の慢性心不全,あるいは標準治療が副作用や合併症などの理由により使えないなどの理由で治療に難渋する慢性心不全の症例も少なからず経験する.特に後期高齢者の心不全に関しては合併症や終末期を見据えた,より医療経済的で包括的な医療が求められる.このような症例に対する補助療法として,漢方治療の有用性が報告されている.Ⅱ 漢方医学的にみた心不全肺,体静脈系のうっ血により生じる浮腫,胸水,尿量減少などの病態を,漢方では「水滞」あるいは「水毒」という.つまり体液分布の不均衡をきたした病態,その結果としての症候を説明する病態である.『症例から学ぶ和漢診療学』に水滞の診断基準2)が挙げられている.このなかで「身体の重い感じ」,「浮腫」,「胸水」,「尿量減少」,「泡沫状の喀痰」等は心不全でよくみられる症候,所見である.「悪心・嘔吐」は腸管血流の鬱滞で生じ得る.「臍上悸」と*1 群馬大学大学院医学系研究科総合医療学講師*2 群馬大学大学院医学系研究科循環器内科学教授*3 群馬大学大学院医学系研究科総合医療学教授高齢者の心不全の早期発見・対策・治療─健康寿命の延伸に向けて漢方治療佐藤浩子*1・倉林正彦*2・田村遵一*3慢性心不全の治療においては,西洋医学的治療が優先される.その一方で,標準的な西洋医学的治療に抵抗性の重症心不全症例や,後期高齢者フレイル症例の心不全症例など,より包括的な視点から治療すべき症例などにおいて,治療に難渋することも多い.このような症例を漢方医学的な症候のとらえ方で見ると,補助的な治療手段が見えてくるケースも少なくない.本稿では漢方的な心不全の病態の見方,適応となる漢方薬について概説する.