カレントテラピー 36-11 サンプル

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Current Therapy 2018 Vol.36 No.11 151055Ⅰ はじめに2016年の統計において本邦における心疾患死亡者数は19.8万人/年であり,全死亡者数の15.1%,死亡原因の第2位となっている1).さらに心疾患による死亡率は人口10万人あたり男性では153.5人,女性では163.0人であり1990年代後半から増加傾向である.一方,冠動脈疾患による死亡率は人口10万人あたり男性が66.4人,女性が46.8人で1990年代後半から横ばいであり,高齢化の影響を除外した年齢調整死亡率では,1970年代以降の心疾患,冠動脈疾患はいずれも低下傾向となっている.これらの統計から,心疾患は総数としては増加しているが冠動脈疾患による死亡は実質的には減少傾向にあり,高齢者の慢性心不全等による死亡が増加していることがうかがわれる.動脈硬化は,メンケベルグ型中膜硬化,細動脈硬化,アテローム性動脈硬化の3種類に分類される.メンケベルグ型中膜硬化は特発性あるいは糖尿病や腎不全に関連して起こる,石灰化を伴う中膜の病変である.細小動脈硬化は高血圧に伴う内膜の線維化やヒアリン沈着により生じる.アテローム性動脈硬化は冠動脈疾患,脳梗塞,閉塞性動脈硬化症の原因となる重要な病変である.以前は動脈壁への脂肪沈着による単なる閉塞と考えられていたが,その後,Virchowの脂質浸潤説とRokitanskyの血栓原説が唱えられ,1976年にRossらが内皮細胞傷害を契機とする炎症反応として動脈硬化を記述する『傷害反応仮説』を提唱した.この説は1999年に体系的にまとめられ,動脈硬化メカニズムの基礎として現在広く受け入れられている2).今日,* 千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学動脈硬化の早期診断法と予防対策─ 健康寿命延伸をめざして発症メカニズム南塚拓也*・前澤善朗*・横手幸太郎*動脈硬化は虚血性心疾患や脳血管障害をはじめとしたさまざまな疾患を引き起こす.以前は動脈壁への脂肪沈着による単なる閉塞と考えられていたが,1976年にRossにより傷害反応仮説が提唱され,動脈硬化メカニズムの基礎として現在広く受け入れられている.単球が内皮下へ移動してマクロファージへと分化し,スカベンジャー受容体を介してマクロファージが酸化LDLを取り込み泡沫化することで,脂肪線条が形成される.マクロファージの更なる集積と中膜から内膜への平滑筋細胞の遊走,増殖により複雑な動脈硬化病変が形成される.プラークは線維性被膜で覆われているが,炎症細胞により菲薄化し,破裂する不安定プラークとなる.免疫細胞は,動脈硬化促進的なもの,抑制的なものに分類される.臨床研究においても抗炎症作用により動脈硬化抑制がもたらされることが示唆されている.本稿では,動脈硬化の発症・進展メカニズムを概説するとともに,近年の知見についてまとめる.