カレントテラピー 36-11 サンプル page 29/34
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概要:
カレントテラピー 36-11 サンプル
Current Therapy 2018 Vol.36 No.11 89Key words1129J-DOIT3国立国際医療研究センター研究所糖尿病研究センターセンター長 植木浩二郎糖尿病の血管合併症の発症進展や死亡の抑制には,血糖単独での介入では効果が十分ではなく,統合的多因子介入によって強く抑制されることがSteno -2研究で示されていた.しかしながら,Steno -2研究は全体で160名のきわめて小規模な研究であり,また従来療法群の血糖・血圧のコントロールや,強化療法群の血糖コントロールは現在のガイドラインに比して,きわめて不十分であった.そこで,統合的介入の効果を検証するわが国発の大規模臨床研究として,Japan Diabetes OptimalIntegrated Treatment study for 3 majorrisk factors of cardiovascular diseases(J-DOIT3)が2006年に開始された.J-DOIT3は,45~69歳までの2型糖尿病で高血圧か脂質異常症のある患者2,542名を,現在のガイドラインに沿った治療を施す従来療法群〔目標:HbA1c<6.9%, 血圧130/80mmHg,LDLコレステロール<120mg/dL(心血管病の既往がある場合は<100mg/dL)〕とより厳格なコントロールを目指す強化療法群〔目標:HbA1c<6.2%, 血圧120/75mmHg,LDLコレステロール<80mg/dL(心血管病の既往がある場合は<70mg/dL)〕とにランダムに割り付けた.ベースラインの年齢は59歳,糖尿病罹病期間は約8.5年,BMIは25弱,HbA1cは約8.0%,血圧は約134/80mmHg,LDLコレステロールは約125mg/dLで,11%心血管病の既往者が含まれていた.また,喫煙者が従来療法群より強化療法群に有意に多く含まれていた(21.0% vs. 25.8%).最終的に従来療法群と強化療法群の各パラメータの平均は,HbA1c(7.2% vs. 6.8%), 血圧(129/74mmHg vs. 123/71mmHg),LDLコレステロール(104mg/dL vs. 85mg/dL)でいずれも有意に強化療法群で改善していた.1次エンドポイントは,全死亡,心筋梗塞,脳卒中,冠動脈および脳動脈血行再建術の複合エンドポイントで,2次エンドポイントは全死亡,心筋梗塞,脳卒中の複合エンドポイント,腎症の発症進展,網膜症の発症進展,下肢血管病変(下肢切断,血行再建術)であった.中央値8.5年の介入の結果,強化療法によって1次エンドポイントについては統計学的に有意でないものの19%の減少(p=0.094)を認めたが,あらかじめ定められた喫煙などの因子で調整すると24%の有意な減少(p=0.042)となった.1次エンドポイントのコンポーネントである脳血管イベント(脳卒中+脳血管再建術)は強化療法によって58%有意に抑制されていた(p=0.002).2次エンドポイントについては,腎症が32%(p<0.0001),網膜症が14%(p=0.042)有意に抑制されていた.1次エンドポイントについて補正前には有意差を認めなかったことについて,従来療法のコントロールもきわめて良好であったこと,強化療法群でいくつかの項目で目標に達しなかったこと,心血管死が非常に少なかったこと,血行再建をエンドポイントに加えたこと等が考えられた.一方で,重症低血糖を起こさずに(8.5年間で従来療法群4例,強化療法群7例)良好な血糖コントロールを得ることができることが示され,現在のガイドラインよりも厳格な介入で脳血管障害,腎症,網膜症を減少させることがわかったことから,将来のガイドラインの変更につながる可能性があると考えられる.