カレントテラピー 36-11 サンプル page 23/34
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カレントテラピー 36-11 サンプル
82 Current Therapy 2018 Vol.36 No.111122Ⅰ 心血管疾患と炎症従来,心筋梗塞などの虚血性心疾患は,責任病変での狭窄が徐々に進み,狭窄度が100%になった時に心血管イベントが発症すると考えられていたが,Fusterらにより心筋梗塞での責任病変が必ずしも狭窄度の高い部位でないことが指摘され,その後,Libbyらによる病理学的検討でそのような責任病変に炎症性細胞の浸潤がみられることが判明した.狭窄度が小さくても炎症性細胞などによってプラークが不安定である場合には破綻が起こって急速に心血管イベントが発症する.このような病態は急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)と呼ばれる.ACSを引き起こす不安定なプラークの特徴としては,炎症の存在や,血管内皮細胞の活性化,線維性被膜の菲薄化,易血栓形成,酸化ストレス,アポトーシス等が挙げられるが,この稿では特に炎症とのかかわりを述べる.Libbyらはプラークの病理学的解析によって,Tリンパ球やマクロファージ,または平滑筋のなかでも活性型のフェノタイプを有するものが,プラークのshoulder部分に多く集簇していることを見出し,このような部位では活発に炎症反応が起こっていると推測した.そして,この炎症を制御することが不安なプラークを安定化させるという考えを提示した1).Ridkerらは,高感度CRP(high sensitive CRP:hs-CRP)と初発の心筋梗塞との相関を調べたところ,hs -CRPが高い群で心筋梗塞の相対危険度が高く,炎症反応が心筋梗塞の発症に寄与している可能性が示唆された2).さらに総コレステロール単独およびフィブリノーゲン単独と比べてhs-CRPは相対危険度に対する寄与が大きいことを示した.一方でその多カナキヌマブ石井秀人*1・吉田雅幸*2*1 東京医科歯科大学先進倫理医科学臨床准教授*2 東京医科歯科大学先進倫理医科学教授動脈硬化の早期診断法と予防対策─ 健康寿命延伸をめざして炎症反応が心筋梗塞の発症に寄与している可能性は以前から指摘されており, 最近ではinterleukin-1β(IL-1β)からinterleukin-6(IL-6)を経る炎症過程が心血管疾患の発症と関係があると考えられるようになった.カナキヌマブは,IL-1βに結合しIL-1βのIL-1β受容体への結合を阻害することで生物活性を中和し,IL-1βを介する炎症を抑えるモノクローナル抗体で,現在は数種類の炎症性の希少疾患の治療薬として承認されている.心筋梗塞の既往患者でのカナキヌマブの心血管イベント抑制効果をみたCANTOS trialでは,カナキヌマブ150mgの投与で対象患者での心血管イベント(非致死性心筋梗塞,非致死性脳卒中,心血管死)の発生は15%低下し,同時に肺癌の発生率も67%低下した.心血管疾患と悪性腫瘍を一元的に抑制できる可能性を示すカナキヌマブの抗炎症療法は,今後の展開に期待が寄せられる.a b s t r a c t