カレントテラピー 36-11 サンプル

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Current Therapy 2018 Vol.36 No.11 771117ント抑制効果は認めなかった.また150mg投与群も,コントロール群と比べて全死亡率には差がなく,高額で副作用もある抗体医薬が実臨床に広く用いられるには,まだまだ議論の余地があると思われる.そのため,現在の治療法以外の,安価で安全な動脈硬化予防・治療法の開発が求められている.腸内細菌と疾患発症に関する研究は,次世代シーケンサーの登場とビッグデータの解析手法の進歩により,ここ数年で急速に発展しており,この流れは動脈硬化性疾患においても例外ではない.動脈硬化性疾患に特徴的な腸内細菌叢が明らかとなってきただけでなく,腸内細菌がもつ機能の差異をメタゲノム解析やトランスクリプトーム解析により解明したり,質量分析装置の進歩により腸内細菌由来の代謝産物も網羅的な解析が可能となった.また腸内細菌叢は次世代へ伝播することから4),社会の腸内細菌への関心はますます増加している.こうした背景のなかで,腸内細菌をターゲットとした治療を実臨床に応用するような患者貢献度の高い研究が求められている.本稿では,動脈硬化性疾患と腸内細菌の関連について,世界の研究の動向と私達の研究を紹介し,今後の展望を述べる.Ⅱ 腸内細菌代謝産物TMAOと動脈硬化2011年は,ヒトの腸内細菌叢のタイプは,Bacteroides属の多い1型,Prevotella 属の多い2型,Ruminococcus属の多い3型の3つに分類されることが報告された年であるが5),同年,米国から,赤肉や卵に含まれるホスファチジルコリンの腸内細菌による代謝産物であるtrimethylamine N-oxide(TMAO)が心血管イベントを引き起こす原因となることが報告された6).ホスファチジルコリンは消化管でcholineに代謝され,cholineを腸内細菌が代謝してtrimethylamine(TMA)となる.TMAは腸管から吸収された後,肝臓でflavin-containing monooxygenase3(FMO3)という酵素によりさらに代謝されTMAOとなる(図1).動脈硬化モデルマウスであるアポリポ蛋白E遺伝子欠損マウスにコリン含有食を投与すると,普通食投与群と比べて動脈硬化巣が増大し,抗生物質を投与し腸内細菌に介入すると,PhosphatidylcholineCholineTMATMAOAtherosclerosisHeart attackStrokeDeathFMOsFatty acidFatty acidOO P CholinePhosphatidylcholine(dietary)Choline Trimethyl amine(TMA)Trimethyl amine N-oxide(TMAO)HO CH2 CH2CH3 CH3CH3HepaticFMOsCH3GutfloraHCH3N+ CH3 N+CH3CH3CH3HO N+OOGut flora図1 腸内細菌の代謝産物であるtrimethylamine N-oxide(TMAO)は心血管イベントを増加させる卵や赤肉に含まれるコリンは腸内細菌により代謝されTMAOとなる.TMAOの増加は,心血管イベントを増加させることが知られている.TMAO産生経路に働く腸内細菌や酵素に対する介入は,循環器疾患の新規予防法・治療法として期待される.〔Wang Z, et al:Nature 472(7341):57-63, 2011より抜粋〕