カレントテラピー 36-10 サンプル page 5/30
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カレントテラピー 36-10 サンプル
8 Current Therapy 2018 Vol.36 No.10934Ⅰ はじめに1941年にAlbrightら1)は骨粗鬆症は「椎体骨折を伴った疾患」である,つまり易骨折を呈する状態との概念を提唱した.1980年代においても「骨粗鬆症」の概念は明確ではなく,多くは「軽微な外力によって脆弱性骨折が生じた場合」や「X線画像における定性的な骨減少所見」を「骨粗鬆症」と診断していた2).その後,世界保健機関(WHO)は1994年の定義を「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし,骨の脆弱性が増大する疾患」であるとし,さらに骨密度による骨粗鬆症の診断カテゴリーを提唱した3()表1).これを受けてわが国では1995年に日本骨代謝学会は整形外科,内科,婦人科,放射線科,スポーツ医学の委員から成る原発性骨粗鬆症診断基準検討委員会を組織し,初の『原発性骨粗鬆症の診断基準』を策定した.その後,X線画像,骨塩量値,さらに既存骨折を考慮した診断基準へと修正が加えられてきた.本稿では本邦における『原発性骨粗鬆症の診断基準』の変遷について述べる.Ⅱ 2000年以前の診断基準の変遷─「骨萎縮度」から「骨塩定量」へ─1995年に策定された診断基準は,①X線上非外傷性椎体骨折を認める場合,骨量減少(図1)(骨萎縮度Ⅰ度以上),あるいは腰椎骨塩量値が若年成人平均値(YAM)の-1.5SD以下)を伴う,あるいは②骨折を認めない場合は,骨萎縮度Ⅱ度以上(図1)または腰椎骨塩量が-2.5SD以下を『骨粗鬆症』と定められた4()表2).脊椎X線による骨萎縮度と腰椎*1 新潟大学医歯学総合研究科地域医療長寿学講座特任准教授/整形外科学分野*2 新潟大学医歯学総合研究科整形外科学分野教授骨粗鬆症診療の真の目的は何か?! ─ 脆弱性骨折の予防と診療の最前線原発性骨粗鬆症の診断基準の変遷今井教雄*1・遠藤直人*21994年の世界保健機関(WHO)の骨粗鬆症の定義を受けて,1995年に既存骨折,骨密度値,X線での骨萎縮度を用いたわが国初の『原発性骨粗鬆症の診断基準』が策定された.骨粗鬆症の診断基準に既存骨折の有無が含まれている点がわが国の診断基準の特徴といえる.2012年に現行の診断基準に改訂され,「既存椎体,大腿骨骨折」が重視された点,つまり,骨量が低い「状況証拠」より「物的証拠」である,既存骨折が重視されたことがこれまでの診断基準との最大の違いである.骨折リスクは骨密度のみでは説明できず,骨密度と独立した臨床的危険因子のなかで「既存骨折」が最も重要と考えられたため,既存骨折がより重要視されるかたちとなった.骨粗鬆症の予防と治療の目的は骨折発生を抑制することであり,「診断基準」は治療開始基準となるものである.われわれは「診断基準」の変遷の意義を十分に理解し,骨折予防のために治療すべき対象を把握することが重要であろう.