カレントテラピー 36-10 サンプル

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カレントテラピー 36-10 サンプル

Current Therapy 2018 Vol.36 No.10 911017能喪失型の変異に起因しており,これまで11カ所の異なる変異が報告されている1).近年はLRP4 遺伝子の機能喪失型の変異を伴う硬化性骨症も報告されている.また,硬化性骨症と類似した皮質骨の過形成を呈するが,硬化性骨症よりも軽度の表現型を呈する稀な疾患として,van Buchem病が知られている2).この疾患ではSOST 遺伝子自身の異常はないが,SOST 遺伝子の35kb下流の非翻訳領域に52kbものゲノムの欠損があり,その結果としてSOSTの発現が減少することが疾患に繋がっている3).では,SOSTが作用しないとなぜ骨量が増加するのであろうか.それを語るためには,Wntシグナルの理解が不可欠である(図1).Wntはパラクラインに作用する分泌タンパクであり,羽のないショウジョウバエの突然変異体の原因遺伝子winglessと,マウスの乳がん発症に関わる遺伝子int -1が相同であったことから,これらを合わせてWntと命名された.Wntは広範な生物で高度に保存され,発生から生体の維持,腫瘍などの疾患に深く関与しており,分子生物学で最も広く研究されているシグナルのひとつであり,研究の歴史も40年以上に及ぶ.2000年にはLDL -receptor-related protein(LRP)がWntシグナルの受容体を構成するタンパクのひとつであり,Wntシグナル経路に不可欠であることが報告され,その後LRP5 遺伝子の異常が骨粗鬆症や骨量増加をきたすことも報告された4),5).これらの発見を契機に,骨代謝領域において多くのWntシグナルの研究がなされ,Wntシグナルが骨量の制御にきわめて重要な役割を果たすことが明らかになった.SOSTは213アミノ酸からなる分泌タンパクであり,糖鎖付加部位を有するほか,bone morphogenic protein(BMP)アンタゴニストに共通するドメインを有する.SOSTは当初,BMPアンタゴニストとしての機能が注目され,骨細胞から分泌されてBMPに拮抗することで骨形成を阻害する分子であると考えられた6).その後の研究で,SOSTはWntシグナルも強力に抑制することが明らかとなり7),その主な作用点はLRP4であることも分かった(図1)8).Wntシグナルは骨形成を強力に促進するが,骨以外のさまざまな組織や細胞においても重要な役割を担っている.そのため,骨粗鬆症治療に応用する際には,骨だけでWntシグナルの活性を高めることができるかどうかが課題であった.その点,SOSTは比較的骨細胞に限局して発現しており9),しかも分泌タンパクとしてWntシグナルを強力に抑制する作用があったことから,抗体医薬による格好の治療標的として研究開発が進んだのである.ヒトスクレロスチンに対するモノクローナル抗体の開発と臨床試験は複数行われたが,現在最も進捗が早く,開発の最終段階に入っているのがromosozumabである.2011年にフェーズ1研究の結果が10),そして2014年にはフェーズ2研究の結果が発表されFrizzledLRP5/6LRP4FrizzledLRP5/6LRP4分解分解細胞膜細胞膜核標的遺伝子β-cateninβ-cateninSclerostinβ-cateninβ-cateninβ-cateninβ-catenβin-cateninβ-catenβin-cateninTCFAPCGSK3AxinAPCGSK3AxinDvlDvlWNTWNT図1WNTシグナルとSOST分泌タンパクであるWNTが作用しない状態では,細胞質に存在するβ-cateninはGSK3を含む複合体によって絶えずリン酸化を受け,分解されやすい状態におかれる(左).WNTが受容体に結合するとGSK3を含む複合体は受容体にトラップされ,分解を免れたβ-cateninは核内に移行し,TCFと結合して転写促進ユニットを形成して,標的遺伝子の発現を誘導する(右).SOSTは主に骨細胞から分泌されるタンパクであるが,LRP4と結合してWNTが受容体に作用するのを抑制する(左).