カレントテラピー 35-9 サンプル

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8 Current Therapy 2017 Vol.35 No.9822Ⅰ 遺伝性乳癌卵巣癌とBRCA1 遺伝性乳癌卵巣癌2016年のわが国の出生数は1899年の人口統計以降初めて100万人を下回る97万6,979人となった.一方,癌罹患数は出生数を上回る100万を超える数字が予測されている1).わが国において癌の治療・予防への取り組みは喫緊の問題である.また,2016年の男性の癌罹患数の第一位は前立腺癌,女性の第一位は乳癌で,それぞれ年間9万人以上と予測されている1).これらの多くは加齢など後天的な要素が癌の原因と考えられるが,その一部には癌になりやすい体質,遺伝性腫瘍が含まれている.かつて,遺伝性腫瘍への取り組みは癌易罹患性の体質を知ること以外のメリットはなく,ごく一部の研究レベルでの存在にすぎなかった.しかし近年,サーベイランスや標的臓器の予防的切除を含む予防医療,原因遺伝子をターゲットとした標的薬剤の開発から,急速に研究から臨床応用へと歩を進めている.女性における乳癌・卵巣癌の遺伝性腫瘍のうち最も頻度が高く,浸透率(遺伝子の異常をもっている場合に実際に発病する率)の高いものがBRCA1 とBRCA2 を原因としたHereditary Breast and OvarianCancer(HBOC)である.BRCA1/2 変異陽性者の女性は,70歳までの乳癌罹患リスクが87~56%と,一般(BRCA 変異をもたない)の乳癌罹患率(9%)より6~10倍程高く,70歳までの卵巣癌罹患リスクも44~27%と一般の卵巣癌罹患率約1.2%より20~40倍高いといわれている2).また,初発から5年以内に乳癌が再発するリスクは20~12%と報告されている3),4).BRCA1/2 変異陽性者の男性の場合,前立腺癌リスクは65歳までにBRCA1 で4.5倍,BRCA2 で5~8.6倍と* がん研有明病院 遺伝子診療部 医員乳癌ゲノム医療最前線─ 臨床応用はどこまで進んだか遺伝性乳癌卵巣癌─パネルテストの時代を迎えて─吉田玲子*かつて,遺伝性腫瘍への取り組みは癌易罹患性の体質を知ること以外のメリットはなく,ごく一部の研究レベルでの存在にすぎなかった.しかし,近年サーベイランスや標的臓器の予防的切除を含む予防医療,原因遺伝子をターゲットとした標的薬剤の開発から,急速に研究から臨床応用へと歩みを進めている.乳癌・卵巣癌の遺伝性腫瘍のうち最も頻度が高く,浸透率の高いものがBRCA1 とBRCA 2 を原因としたHereditary Breast and Ovarian Cancer(HBOC)である.しかし,近年次世代シークエンス解析技術(next generation sequencer:NGS)の進歩に伴いBRCA だけでなく乳癌発症と相関を示す複数の遺伝子を同時に低コストで調べるmulti-genepanel が登場し,海外では乳癌の遺伝学的検査の主流となっている.生殖細胞系列の遺伝学的検査が治療のコンパニオン診断となった現在,遺伝性腫瘍の位置づけは癌医療の大事な一分野となっている.