カレントテラピー 35-9 サンプル

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Current Therapy 2017 Vol.35 No.9 7821乳癌ゲノム医療最前線― 臨床応用はどこまで進んだか―企画昭和大学医学部乳腺外科教授中村清吾個人の全遺伝情報(ゲノム)を調べ,一人ひとりに最適ながん治療を全国どこでも受けられるようにする国家プロジェクトを目指し,厚生労働省が「がんゲノム医療」の研究・治療にかかわる計画を策定した.乳癌領域では,もともと,ERやHER2をベースとするサブタイプに分けた治療方針が標準治療として確立し,治療成績の向上に寄与してきた.さらには,ER陽性患者のなかでも,予後予測あるいは化学療法の効果予測検査として,OncotypeDXRやMammaprintR等の多遺伝子発現解析検査が世界的に実臨床で用いられてきた.わが国では,未だ保険適用ではなく高額な自己負担となるものの,化学療法の上乗せ効果があるのか否かをもう少し客観的に見極めたいとする患者を中心として,一部で利用されてきた.また,5~10%存在すると推定される遺伝性乳癌卵巣癌(HereditaryBreast and Ovarian Cancer:HBOC)に対しては,BRCA1/2 検査の結果を基にした①乳房MRIスクリーニングを含む検診,②リスク低減乳房切除術,リスク低減卵巣卵管切除術,③タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬を用いた化学予防等,医学的管理の標準化が欧米を中心として急速に進みつつある.わが国では,10~15年の遅れがあるものの,HBOCに対する認知度,理解度が高まり,2016年8月に日本乳癌学会,日本産科婦人科学会,日本人類遺伝学会が共同して,(社)日本乳癌卵巣癌総合診療制度機構(Japanese Organization of Hereditary Breast and Ovarian Cancer:JOHBOC)を設立し,診療体制の整備(医療連携,均てん化)を進めている.また,この先,免疫チェックポイント阻害剤や,各種分子標的薬等,高い効果が望めるものの高額なために,より治療効果が期待できる患者群を絞り込むための,癌組織に対する遺伝子パネル検査の開発並びに臨床応用も進みつつある.しかしながら,検査そのものも高額であり,検査対象をどう設定すべきかという問題もある.ここには,詳細かつ包括的な医療経済評価が必要である.以上,がんゲノム医療を推進していくうえでの全般的な課題として①保険診療における位置づけ,②個人情報保護の観点からの配慮,③遺伝カウンセリング体制の充実,④海外の先進事例との連携体制,⑤AI(人工知能)の活用等が挙げられる.特に,医療経済を評価するうえでも,AIを用いたビッグデータに対する解析技術の向上と医療現場への導入がカギを握るであろう.がんゲノム医療─ 臨床における課題と将来展望─