カレントテラピー 35-9 サンプル

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Current Therapy 2017 Vol.35 No.9 69883Ⅰ はじめに乳癌の70~80%程度がホルモン依存性で,エストロゲン受容体(estrogen receptor:ER)および/またはプロゲステロン受容体(progesterone receptor:PgR)を発現している.ホルモン受容体陽性乳癌に対しては術後補助療法として内分泌療法が適応される.また,乳癌の15%程度にはHER2/neu 遺伝子の過剰発現が認められ,HER2に対する分子標的療法の良い適応となっている.ER, PgR, HER2の三者すべてが陰性の乳癌はトリプルネガティブと称されている.元々,乳癌の内因性サブタイプ(intrinsic subtype)分類は,抽出したcDNAマイクロアレイ技術を用いたクラスター解析によって行われ,luminal A, luminal B,HER2+/ER-, basal-like, normal breast-likeの5つの亜型分類が提唱された.また,この分類法は予後とも相関することが報告された.しかし,日常診療に応用するために,より簡便な免疫組織学的検索法によって代用する方法が導入され,定着した1).同時に,この分類法が術後薬物療法を選択するための基準として用いられるようになったものである.2年に一度開催されている,早期乳癌に対する初期治療の選択を検討するSt. Gallen国際コンセンサス会議では,免疫組織染色を基盤に内因性サブタイプ分類を行い,薬物療法の適応決定や効果予測に役立てている.2015年の会議で提唱された,治療に即した乳癌の分類法を表に示した2).すなわち,ホルモン受容体陽性・HER2陰性のLuminal型は,ホルモン受容体高発現・増殖能(Ki 67)低率の低悪性度癌(luminalA -like)と,ホルモン受容体低発現・増殖能高率の高悪性度癌(luminal B-like)およびその中間型に細分類された.そしてluminal A -likeに対する術後補助療法は内分泌療法単独,luminal B-likeは内分泌療* 川崎医科大学病理学2教授乳癌ゲノム医療最前線─ 臨床応用はどこまで進んだかKi67森谷卓也*Ki67は細胞増殖にかかわるマーカーで,さまざまな腫瘍の病理標本において計測がなされている.乳癌では,Ki67 labeling index(LI)は予後因子であるとともに,ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳癌における術後化学療法の適応を決定する指標として重視されている.LI は具体的数値として示され,免疫組織染色のカウントによって計測するが,固定から染色まで,適切な判定前の準備と精度管理が望まれる.染色標本の計測法は一定の作法で実施されるべきで,標準化への試みがさまざまなされているが,計測部位の選定や計測する個数など,ある程度の推奨手法が提唱されてはいるものの,画一的な方法は定められてはいない.したがって,治療の適応を決定するための普遍的なカットオフ値が設定されるまでには至っておらず,現状では各施設における努力と工夫が重要視されている.