カレントテラピー 35-9 サンプル page 19/34
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カレントテラピー 35-9 サンプル
Current Therapy 2017 Vol.35 No.9 61乳癌ゲノム医療の臨床展開875リスクのある患者の検査代金の負担は英国ではゼロであり,韓国では保険適用されている.さらに,英国ではRRMや乳房再建の費用についての患者負担もない.日本においても,これらのゲノム医療の保険適用は喫緊の課題である.Ⅲ 体細胞系列のゲノム医療今後はがんクリニカルシークエンス等も使われるようになるが,代表的なものとして臨床ですでに用いられているOncotype DXRの使用が挙げられよう.Oncotype DXRは原発性乳癌術後の化学療法が必要かどうかを判断するために役立つ遺伝子検査である.2013年9月,英国NICEの診断ガイダンスには,OncotypeDXRは(ER+),(LN-),(HER2-)の初期乳癌患者に対して,手術後の化学療法をするための判断に役立つと推奨されている.Oncotype DXRに対する費用対効果の評価の結果により,適用となる患者〔Nottingham Prognostic Index(NPI)スコアが3.4より上の遠隔転移が中リスクである患者〕は自己負担なしでOncotype DXR検査が受けられる8).実際に導入されはじめたのは,1年半前からになる12).米国では,65歳以上の公的保険のメディケアで利用されており,2006年にカリフォルニア州が最初に導入した.それから1年ですべての民間保険に導入されている.米国では,Oncotype DXR対象者の30~60%で利用されているという.他の国については,カナダのほとんどの州(80%)で導入されている12).欧州では,スイス,アイルランド,ギリシャ,スペインなどで導入されている13).他方,韓国においては,韓国出身の病理医であるPark教授が渡米して,National Surgical AdjuvantBreast and Bowel Project(NSABP)Foundationに所属し,開発に携わったというが8),いまだ韓国では公的保険に収載されていない.アジア・パシフィックではいずれの国でも保険適用になっていない12).Oncotype DXR検査が,日本人においても有用であるとの結果はいくつか得られている.また,2011年のKondoらの報告14)や2014年のYamauchiらの報告15)では,費用対効果も示されている.その費用対効果は,日本での1QALY増分費用の閾値とされる,500万円より低い8).しかし,いまだ保険適用にはなっておらず,患者の100%自己負担額は,為替レートにもよるが40万円ほどとなっている.この高額な患者自己負担が,ゲノム医療が広く展開されることを阻んでいると思われる.社会全体の医療費を抑えるためにも,費用対効果のよい「精密医療」が望ましい.Ⅳ これからの「精密医療」におけるゲノム医療ヒトの全ゲノムが解析に長い時間と費用が必要であった時代から,技術が飛躍的に進歩し,さらには次世代シークエンサーの登場により,より身近で,臨床の現場での活用も検討されている時代になった.日本でも,OncomineTM Cancer Research Panel, FoundationOne,Cancer Plex,クラーク検査等がすでに導入されているが,そのようななかにあって,どの疾患のどこまでの医療に保険財政を用いることが,社会全体の医療費を抑えるためにも,費用対効果のよい「精密医療」となるかの検討は今後重要になってくると思われる.すでにこの「精密医療」を多く導入している米国,フランス等からは,臨床効果のデータも発表されている16)~20).実際にゲノム解析に基づいた治療を行うことを目的に図っても,どれくらいの人がその恩恵(保険診療で認められている治療を受けることができる,あるいは治験薬等にアクセスできる)にあずかれるのか,今までの治療とゲノムに基づく治療とで,患者の生存率に差が出るのか,さらには費用対効果分析も発表されてきているので,それらから学びながら進めていく必要がある.さらには腫瘍部の体細胞変異(いわゆる後天的)を判断するために,同時に生殖細胞系変異(先天的)も計測されることも多くなり,それに伴い,遺伝性腫瘍家系が多く見つかってくることも考えなければならない.未発症者の検診が自費であり,またその発症リスクを低くする手段も保険診療として行われていない日本において,遺伝性腫瘍が見つかってきてしまったが,どうすることもできない国民をいたずらに増やす