カレントテラピー 35-9 サンプル

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60 Current Therapy 2017 Vol.35 No.9874リアでは10~27%とされている5).BRCA 変異陽性の人にとっての高い乳癌卵巣癌罹患率を避けるための予防的戦略としては,サーベイランスによる癌の早期発見という手段もあるが真の予防にはならない.ホルモン治療薬や経口避妊薬の服用など化学的予防も検討されているが,その効果はまだそれほど高くは望めない.何よりもより効果が高いのは,将来的に癌が発症してくる可能性の高い臓器を発症前に切除してリスクを低くするというリスク低減の乳房切除,すなわちrisk-reducing mastectomy(RRM)や,卵巣卵管切除,すなわちrisk-reducing salpingooophorectomy(RRSO),その両方の外科的切除,すなわちRRM&RRSOになる6).われわれの行った,医療経済の視点からの研究がある.日本における医療コストをベースに,日本の臨床現場の情報に基づき,35歳からサーベイランスのみを実施したグループ,35歳でRRMを実施したグループ,45歳でRRSOを実施したグループ,35歳と45歳でそれぞれRRM とRRSO(RRM & RRSO)を実施したグループの4つに分けて,BRCA1 変異陽性およびBRCA 2 変異陽性それぞれにおいて費用効用分析で比較した研究である.その結果は,いずれの予防的外科的手術も,サーベイランスに較べて費用対効果が優れていた.サーベイランスを含む4つの戦略のなかでは,BRCA1 についてはRRM&RRSOが,BRCA2 についてはRRMが,費用対効果が最もよいという結果となっている7).しかし,日本においては遺伝子検査について,また,RRM,RRSO,RRM&RRSOについて,いまだ保険適用にはなっていない.本人負担は自費100%となるので,遺伝子検査は20~30万円,RRMおよびRRSOは100~200万円となっている.本人負担が高額となるので,この保険適用外である点がゲノム医療を促進する障壁になっているのではないだろうか.海外に目を移すと,2013年の英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and CareExcellence:NICE)のガイドラインによると,個人のリスクに従って,本人負担なしで遺伝子検査が受けられる.BRCA1 およびBRCA2 合計の変異キャリア確率が10%以上なら,専門の遺伝子クリニックでの遺伝子検査が提供されている.キャリア確率の計算には,BOADICEAやManchesterスコアリングシステムなどが用いられる.RRMについては,2004年のガイドラインで,乳癌罹患歴がなく,家族のなかに高リスクの人がいる女性に適当であるとしている.RRM後の乳房再建についても,自己負担なく受けられる8).韓国においては,BRCA1 ,BRCA2 の遺伝子検査は2012年に公的保険に収載されている.その対象となるのは,乳癌や卵巣癌と診断され,患者の家族や親戚(二親等以内)で1人以上の乳癌や卵巣癌がある場合,患者本人に乳癌と卵巣癌が同時に発症した場合,40歳以前に診断された乳癌,両側性乳癌,乳癌を含む多臓器癌,男性の乳癌,上皮性卵巣癌の場合である8).他方,コンパニオン診断としてのBRCA 遺伝子検査が注目を集めている.Robsonらによって「HER2陰性転移性乳癌および生殖系列BRCA 変異を有する患者のためのolaparib単独療法対化学療法の第Ⅲ相試験」の結果が発表されたためである9).302名が参加した(白人:約65%,アジア人:約31%,その他:約4%)この試験では,参加者は2:1の割合で,olaparib群(300mg tablets 1日2回)(205名),または治験担当医が選択した化学療法群(カペシタビン,エリブリン,ビノレルビンのいずれか21日サイクル)〔91名(6名は治療を受けず)〕に割り付けられた.その結果,無増悪生存期間の中央値はolaparib群で7カ月,化学療法群で4.2カ月となり,olaparibにより癌の進行リスクを42%軽減し,統計学的に有意であった.奏効率は,前者で59.9%,後者で28.8%で,グレード3以上の有害事象は前者で36.6%,後者で50.5%であった.また,副作用による治療中止は前者で4.9%,後者で7.7%であった.Olaparibを利用するには,コンパニオン診断としてのBRCA 遺伝子検査を受けることが必要である.BRCA 遺伝子検査をする場合としない場合の費用対効果の分析は,海外においてはすでにあり,BRCA遺伝子検査は費用対効果がよいという結果になっている10),11).日本においても,この遺伝子検査の費用対効果分析を行うことで,保険適用に繋げていくことが求められている.前述のように,この遺伝子検査は,