カレントテラピー 35-8 サンプル

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12 Current Therapy 2017 Vol.35 No.8726ファチニブに関しては低濃度でも腫瘍の増殖抑制が得られるため,中枢神経系への移行性が低くても一定の効果は得られると考えられているが,データは不十分である13).2 体腔液貯留を伴う症例『肺癌診療ガイドライン』においては,癌性胸膜炎による胸水貯留症例に対して胸腔ドレナージ後の胸膜癒着術が推奨されているが,有害事象として低頻度ではあるが急性呼吸促迫症候群(acute respiratorydistress syndrome:ARDS)が起こり得る6).これは後々のEGFR -TKIを用いた治療選択に影響を与えかねない.一方,悪性疾患における体腔液貯留に関してvascular endothelial growth factor(VEGF)が重要な役割を果たすことが明らかになっており,胸水貯留を伴う症例において,胸水中あるいは血中のVEGF値が他の病態と比較して高値を示す14).このことから,胸水貯留を伴う症例に対して抗VEGF抗体を併用して治療成績が向上することが明らかになりつつあり,EGFR-TKIとの併用も試みられている(後述).Ⅴ EGFR-TKIに対する耐性の克服1 T790M陽性症例に対する治療第一・第二世代のEGFR-TKIは1st lineで優れた治療効果を示すものの,9~13カ月で耐性を示す(表1).獲得耐性の要因にはHER2 やMET の増幅,PIK3CAやBRAF の変異,NF1 の欠損など新たな遺伝子変異の出現や細胞内の異常なシグナル伝達の出現なども解明されてきているが,獲得耐性を示すケースの6割で新たにEGFR のエクソン20にT790M変異が出現する15).この変異によりEGFRとATPの親和性が増強され,ATPと競合するEGFR-TKIのEGFRへの結合が阻害される.非可逆性のアファチニブは基礎データではT790M陽性の腫瘍に対して有効性を示したものの,実臨床では第一世代のEGFR-TKI既治療後の症例に対する奏効率は10%未満,無増悪生存期間も4カ月に満たず,T790M陽性の腫瘍の増殖の抑制は困難であった4),16).一方,第三世代のオシメルチニブはEGFR 活性型変異を有する腫瘍細胞に加え,耐性変異であるT790Mを有する腫瘍細胞も選択的に阻害する.その結果,EGFR -TKIによる前治療歴のある症例に対する奏効率はT790M陽性症例で71%,無増悪生存期間8.5カ月と非常に良好であった5).野生型のEGFR に対する活性が低いため,有害事象も軽微である.さらに脳実質への移行性に非常に優れていることも特徴であり,脳転移を有する症例への効果が期待されている17).このようにT790Mはオシメルチニブの効果予測因子となり,第一・第二世代のEGFR -TKIでの病勢進行時の再生検による確認は必須である.しかし,実地臨床では20~40%の症例は技術的に再生検が困難であり,再生検を行ったとしても11~21%の症例では検体量の不足などの理由でT790Mの証明に至らない.国内の報告では,再生検成功率は79.5%と報告されている1).それを補うべく血中の遊離DNA(circulatingcell-free DNA:cfDNA)を用いて血液検体からT790Mを検出するアッセイ(Cobas法)が開発・承認された.ただし,cfDNAによるT790Mの検出感度は7割程度と依然低い18).この偽陰性率の高さから,再生検が不成功になった場合あるいは困難と判断される場合にのみ血液検体の使用を検討するべきである1).現在までのオシメルチニブの有効性と安全性についての知見は腫瘍由来のT790陽性症例について行われており,cfDNAでT790M陽性の場合においてのデータは不十分であるため,これを検証するためのWJOG- 8815L試験が本邦で進行中である.さらに,オシメルチニブに対する新たな耐性を示す遺伝子変異であるC797Sの存在も明らかにされ,C797Sをターゲットにした薬剤の開発も進んでいる.2 EGFR-TKIと他の薬剤との併用代表的な併用療法の例として,抗VEGF抗体であるベバシズマブとエルロチニブの併用療法とエルロチニブ単剤の有効性を比較したphaseⅢ試験であるBeTa試験では,主要評価項目である全生存期間の改善を証明できなかったが,対象をEGFR 変異陽性症例に絞ったJO 25567試験では無増悪生存期間の有意な延長が得られ,ベバシズマブのエルロチニブへの併用効果が証明された.さらにこの併用効果はT790Mをde novo で有する症例においてより顕著に得