カレントテラピー 35-8 サンプル

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8 Current Therapy 2017 Vol.35 No.8722Ⅰ はじめに近年の分子生物学的な特性の解明により,非小細胞肺がんはepidermal growth factor receptor(EGFR )遺伝子変異の有無,anaplastic lymphomakinase(ALK )遺伝子転座の有無,programmeddeath -ligand 1(PD -L1)の発現状況などにより異なるカテゴリーの疾患群として大別されるようになり,それぞれの生物学的特性に基づいて治療戦略が展開されるようになってきた.本稿ではEGFR 遺伝子変異を有する肺がん症例の治療について,現在承認されている第一~第三世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-tyrosine kinase inhibitor:EGFR -TKI)について,各薬剤の特性と実地臨床上の選択,今後の方向性について述べる.Ⅱ 非小細胞肺がんに対するEGFR-TKIEGFRは細胞膜を貫通して存在するチロシンキナーゼ型受容体であり,HER1(EGFR , ErbB1 ),HER2(Neu ,ErbB2 ),HER3(ErbB3 ),HER4(ErbB4 )からなるErbBファミリーに属する.リガンドであるepidermal growth factor(EGF)がEGFRの細胞外ドメインに結合した結果二量体を形成し,細胞内のキナーゼドメインが活性化されることにより下流のRas-Raf -MAPK経路やPI3K/AKT経路のシグナル伝達が亢進し,その結果細胞増殖が促進されるとともにアポトーシスが抑制される.EGFR に遺伝子変異が起こるとEGFRチロシンキナーゼのATP結合部位が構造変化をきたし,その結果細胞内のシグナル伝達が恒常的に活性化され,がん細胞の増殖と生存がこの経路に*1 和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科助教*2 和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科教授肺がん─個別化医療の時代EGFR 変異とその治療薬徳留なほみ*1・山本信之*2現在日常臨床で用いられるepidermal growth factor receptor(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-tyrosine kinase inhibitor:EGFR-TKI)には,第一世代のゲフィチニブとエルロチニブ,第二世代のアファチニブ,第三世代のオシメルチニブの4 剤がある.第一世代と第二世代のEGFR-TKI は活性型変異を有する症例に高い効果を示し,EGFR 変異陽性のⅣ期の非小細胞肺がんにおける治療の第一選択である.また,第三世代のオシメルチニブは第一・第二世代での治療により耐性変異であるT 790 M を獲得した症例に対する二次治療として適応が認められている.さらなる治療効果の改善のためにさまざまな基礎研究や臨床試験が進行中であり,今後の進歩が期待される.これらのEGFR-TKIを駆使することで約20 カ月の間病勢をコントロールすることが可能になった現在,それぞれの薬剤の特性を熟知し,副作用を管理したうえで十分に使い切ることが必要である.