カレントテラピー 35-8 サンプル page 12/34
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カレントテラピー 35-8 サンプル
48 Current Therapy 2017 Vol.35 No.8762Ⅰ はじめに肺がんの手術は20世紀初頭から始まり,多くの先人達の知見,工夫により現在に至っている.肺がん手術の過去から現在への軌跡,そして将来への展望について記載する.Ⅱ 肺がん手術の歴史肺がん手術の新しい道を考えるにあたり,先人達がいかにして肺がん手術を行い,現在の形になったのかを知るために,肺がん手術の歴史を振り返ってみる.肺がんに対する最初の手術として,1933年のGrahamが行った左肺全摘術とする記述を教科書,reviewなどでしばしば見かけるが(著明な胸部外科医であるGinsbergのreviewにもそのように書かれている)1),実際はそれより早く1903年にHeidenhainによる肺葉切除術が行われている.しかしこの手術は気管支拡張症に対して手術が行われ,術後摘出標本を見てみると肺がんが含まれていたものであり,術前に肺がんと想定されて手術されたものではない2).術前に肺がんを強く疑い手術を施行したのは1912年の英国の外科医Daviesが最初である3).44歳の男性に対し,術前の胸部X線で右下葉の肺がんを疑い,第6肋間開胸で右下葉切除術を施行した.Daviesが術前に肺がんを強く疑ったのは当時としては慧眼といえよう.Daviesの論文には右下葉の大きな腫瘤が写る胸部X線写真が掲載されている.当時肺切除術(多くは気管支拡張症に対する手術)は多くが2期的に行われていた.すなわち開胸後人工気胸または肺門を結紮して閉胸(第1回目の手術).その後時間が経過してから肺切除する(第2回目の手術)の方式である.Daviesは解剖学的な肺*1 慶應義塾大学外科学(呼吸器)准教授*2 慶應義塾大学外科学(呼吸器)助教*3 慶應義塾大学外科学(呼吸器)教授肺がん─個別化医療の時代肺がん手術の新しい道大塚 崇*1・政井恭兵*2・加勢田 馨*2・菱田智之*1・淺村尚生*3肺がん手術は20世紀初頭から始まり,先人達の創意,工夫により現在の安全性の高い手術に変化してきた.Daviesによる肺葉切除,Grahamによる左肺全摘術,Price-Thomasによる右上葉スリーブ切除術などが大きなステップであった.手術器具については漏斗胸手術で有名なRavitchが自動縫合器の進歩に大きな貢献をしている.近年「低侵襲」といわれる手術が肺がんに対しても行われている.これらは小開胸による直達手術,胸腔鏡手術などがある.胸腔鏡手術が小開胸手術に比して低侵襲であることは現在まで証明されてはいない.胸腔鏡,ロボット,単孔式胸腔鏡での肺がん手術においては肺動脈損傷というcatastrophic な事態が起こり得る状況への対処が十分であるのかは議論の余地がある.