カレントテラピー 35-6 サンプル

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Current Therapy 2017 Vol.35 No.6 11トピックス:ニューロリハビリテーション総論513主に健常成人を対象としており,脳卒中片麻痺に認められる固有の神経学的兆候については考慮されていない.例えば,身体運動の遂行や運動学習を妨げるような,連合反応や共同運動といった病的な運動パターンをどのように管理,抑制しながら運動学習を進めればよいかについて,明確な方法は示されていない.また,学習内容や学習過程によって,動員される脳領域が異なっていることが知られており,その領域に器質的損傷がある場合には特定の運動学習が選択的に阻害されることもわかっているが,学習種と責任脳領域の対応関係がすべて網羅的に解明されたわけではない.ヒトを対象とした神経リハビリテーション介入手技の中枢神経作用性についても注意が必要である.介入手技は概して非侵襲的であり,想定通りの脳領域や細胞種を,想定通りのタイミングや強度で刺激することができているか,検証が不十分な面もある.例えば,頭皮越しに電磁気的な刺激を与えた場合には,動員される細胞が神経細胞だけなのか(神経活動を修飾している脳血管やグリア細胞に対する影響はないのか),動員される神経細胞のサイズは随意運動の際に動員されるものと同じなのか(随意運動では細胞直径の小さな細胞が優先的に動員されるが,末梢神経軸索に対する外部からの電流刺激の場合は,細胞直径の大きな細胞から動員される),与えた電磁気刺激は電気伝導率や透磁率の異なる各種生体組織を経て,頭蓋内部で皺構造をもつ脳表に対してどのような空間分布を示しているのか(計算機を使った数値シミュレーションでは,空間的に不均一な電流密度が脳領域をまたぐように分布している),といった点である.運動している四肢の映像を被験者に見せることで視覚的な運動錯覚を与えたり,ロボティクスによって身体を他動的に動かしたりしたことが,視覚や体性感覚を通じて脳内の目的の領域を正しく刺激しているのかという点も,明らかにしていくべき点である.モデル動物を用いた可塑性研究もまた,単一細胞レベルでの原理を発見するうえで大きな貢献を果たしてきたが,そうした細胞レベルでの基本法則の単純な積み上げが,100億個オーダーの神経細胞からなるネットワークの機能特性を支配しているとは考えにくく,マクロレベルでの可塑性の性質を客観的,定量的に定義づけしていくことが必要だと思われる.このことは例えば,原子サイズの物性を記述している量子力学と,ミリメートルやミリグラム以上の物理世界の性質を記述しているニュートン力学の両者を単純に接合することは現状困難で,いまのところ別々の理論体系として研究が進んでいることに似ている.そのほかにも,げっ歯類や霊長類の脳は,ヒトの成人脳と比較して強い可塑性を示すため,脳損傷後の回復プロセスは,通常ヒトではみられないような大規模な変遷を辿る場合がある7).モデル動物研究における障害モデルの作出方法についても,臨床的に観察される病変や病像を必ずしも模擬できていない場合が多い7).例えば,皮質表面に局所的な冷却,切除,薬剤介入を起こすモデルは,術式が容易で,かつ,個体間で安定した病変作出ができ,表出した病態やその後のリハビリ介入効果の因果関係を議論するうえで容易であったために,これまでよく用いられてきたが,皮質上に局在した病変をもつ脳卒中症例は臨床的には稀有であり,動物研究で得られた知見を直接臨床所見の解釈に用いることができない場合がある.障害モデルの適切な選択と得られた結果の解釈については,慎重を期すべきである.Ⅳ 神経科学に基づいた神経リハビリテーション事例の紹介最後に,私たちが取り組んでいるブレイン・マシン・インターフェース(Brain-Machine Interface:BMI)について紹介し,神経科学の立場からみた脳卒中片麻痺上肢の機能回復プロセスについての考えを述べる.BMIについても例外ではなく,これまで指摘してきた課題と対峙しながら研究を進めている段階にあるが,BMI 研究の足跡が神経科学とリハビリテーション医学を接続することに関心のある読者諸氏の研究活動の参考になれば幸いである.頭皮脳波を計測して運動関連電位変化を検出し,コンピュータカーソルや電動装具を制御するBMIは当初,タッチセンサや眼電位などを使って家電の操作をする福祉機器の延長線上に位置づけられ,その有用性が検討されていた11).しかし近年では,継続的な