カレントテラピー 35-5 サンプル page 6/32
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カレントテラピー 35-5 サンプル
Current Therapy 2017 Vol.35 No.5 9413Ⅱ 病因双生児研究から計算された遺伝率は双極性障害では85%であり,大うつ病性障害(37%)よりはるかに高い3).しかも,双極性障害発端者の第一度親族における生涯有病率は双極性障害11.9%,大うつ病性障害15.6%であり,大うつ病性障害発端者(それぞれ1.7%と20.5%),健常者(それぞれ1%と7.3%)と比較すると,特に双極性障害の家族歴が非常に高い4).しかし,有病率の絶対値は高くないため,双極性障害の家族歴がないからといって双極性障害が否定されるというほどではない.遺伝以外の病因は明らかではないが,大うつ病性障害と同様に小児期の虐待が経過の悪さと関連することが報告されている5).発症後のライフイベントも気分症状出現と相互に関連があると報告されている6).すなわち,否定的ライフイベントは躁症状とうつ症状の出現に先行し,肯定的ライフイベントは躁症状の出現に先行する.反対に,躁症状は肯定的ライフイベントに先行し,うつ症状は否定的ライフイベントに先行する.遺伝要因,環境要因は双極性障害の発症,経過に関連するが,両者の交互作用もあるかもしれない.Ⅲ 病態1 自然経過双極性障害の病態生理はよくわかっていないので,症候学,自然経過から病態と関連し得る特徴を紹介する.前述したように,双極性障害の約2 / 3はうつ病相で始まる.うつ病で発症する双極性障害群では躁病で発症する群よりも,より慢性で,病相回数が多く,発症年齢が遅く,うつ病相が多く,双極Ⅱ型が多いという特徴を有する7).しかも,双極性障害の長期経過では圧倒的にうつ病相の期間のほうが長く,平均13年間の追跡調査では,双極Ⅰ型障害とⅡ型障害で,うつ病相の期間はそれぞれ32%と50%,躁・軽躁病相の期間はそれぞれ9%と1%,混合性あるいは躁うつ交代性の病相はそれぞれ6%と2%,残りの寛解期間はそれぞれ53%と46%であった8),9).うつ病の経過を長期に追跡すると,年1%の割合で双極Ⅰ型障害,年0.5%の割合で双極Ⅱ型障害に診断が移行する.さらに,20年以上経過を追跡すると双極Ⅱ型障害の41%は双極Ⅰ型障害に診断が年々直線的に移行し,診断移行率は年2%であると報告されている10).したがって,双極Ⅰ型かⅡ型かという診断は流動的であり,長期的に見ると固定された診断とはいい難い.1年間に4回以上の軽躁,躁,うつ病相を繰り返す症例を急性交代型とよぶが,急性交代型は双極性障害の5~15%でみられる2),11).抗うつ薬の使用,甲状腺機能低下が急速交代型発症と関連する.2 概日リズム障害従来から指摘されてきたことであるが,最近,双極性障害の概日リズム障害が注目されている.地域住民対照群と比べて,双極性障害と大うつ病性障害では生物学的リズム障害が高度であり,寛解した双極性障害でもリズム障害が認められた12).さらに双極性障害では大うつ病性障害に比べても有意にリズム障害が高度であった.筆者らの最近の研究でも,概日リズム睡眠障害は双極性障害で32.4%と多く出現し,同障害は双極性障害の病態と深く関連していることが示唆された13).概日リズム睡眠障害のなかでは睡眠相後退障害が特に多かった.このように客観的評価が可能な概日リズム睡眠障害に注目することにより,双極性障害の病態が明らかになり,さらに早期適正診断につながることが期待される.Ⅳ 診断と鑑別診断1 双極性障害の診断・鑑別診断の基本的な流れ躁病相が出現した場合には双極Ⅰ型障害とすぐに診断することはできるが,まれに膠原病などの器質性精神疾患あるいは統合失調症の初期症状であることがある.前者の場合は他の身体症状,血液検査所見,記憶障害などが鑑別診断の糸口となる.古くは神経梅毒で躁症状,うつ症状が多くみられたが,最近はまれである.また,内分泌性精神障害(甲状腺