カレントテラピー 35-5 サンプル page 27/32
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カレントテラピー 35-5 サンプル
80 Current Therapy 2017 Vol.35 No.5484ラピッドサイクリング大分大学医学部精神神経医学講座教授 寺尾 岳双極性障害は気分エピソードの再発を繰り返す疾患であるが,再発が頻回にみられる場合がある.例えば,Eugene Bleulerは50時間のサイクルで再発を繰り返す患者を1911年に報告している.臨床的にも,数時間単位もしくは数日単位で顕著な気分変動を生じる患者を経験することがある.ラピッドサイクリング(rapid cycling:RC)の概念は1974年にDunnerとFieveによって,1年に4回以上,気分エピソードを繰り返す双極性障害の特殊型として定義されたが,これはリチウムに反応しない患者の特徴として抽出されたものであった.確かに,RCを呈する患者にはリチウムが有効でないことが多いが,その後リチウムに対する反応性とは別に定義されている.例えば,DSM - 5では「躁病,軽躁病,または抑うつエピソードの基準を満たす気分エピソードが,過去12カ月の間に少なくとも4回存在する」と記載され,リチウムに対する反応性には言及していない.双極性障害におけるRCの有病率はさまざまで,時点有病率を調べた8つの研究では4.9~32.0%の範囲で平均は18.1%であった.一方,生涯有病率を調べた4 つの研究では25 . 8~43. 0%の範囲で平均は31. 5%であった.遺伝に関して,RCの家族集積を支持する所見や支持しない所見についてメタ解析を行ったところ,関連は否定された.遺伝子レベルでは,RCに関連するものとして,brain -derivedneurotrophic factorのVal 66 Met多型などいくつかの候補遺伝子が挙がっているが,抗うつ薬投与や気質などで補正されていない研究が多く,現時点で結論は導けない.性比に関しては,RCは女性に多いというメタ解析の結果がある.しかし女性という性自体が直接RCと関係しているのではなく,女性は双極性障害の経過のなかでもうつ病エピソードを生じやすく,抗うつ薬が投与されやすいために,抗うつ薬によるRCを呈しやすい可能性もある.抗うつ薬がRCを誘発する確率は3~50%と報告されている.また,双極性障害に投与するリチウムがその副作用として甲状腺機能低下を生じ,この甲状腺機能低下がRCを引き起こす可能性も以前から指摘されている.このように,RCはさまざまな要因から引き起こされるために,双極性障害の特殊な亜型というよりは,経過のなかでの一時的な現象であるという意見も多い.うつ疾患の診断と鑑別─双極性障害を中心に