カレントテラピー 35-2 サンプル page 5/32
このページは カレントテラピー 35-2 サンプル の電子ブックに掲載されている5ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。
概要:
カレントテラピー 35-2 サンプル
8 Current Therapy 2017 Vol.35 No.2106Ⅰ はじめにがん免疫療法の歴史は古く,ニューヨークの外科医であったWilliam Coley博士が1891年に腫瘍内に細菌を注射する治療を行ったのがはじまりと言われている.その後,サイトカイン療法,ペプチド療法,活性化リンパ球療法,樹状細胞療法など,さまざまな免疫療法が登場したが,その効果については長い間疑問視されてきた.これまでの免疫療法が効果を上げられなかった原因のひとつに,免疫系を抑制する“免疫チェックポイント(immune checkpoint)”の存在とその重要性が知られていなかったことが挙げられる.免疫システムには,免疫系を活性化するアクセル(共刺激分子)と抑制するブレーキ(共抑制分子)が存在する.従来のがん免疫療法がアクセルを踏むことに重点を置いてきたのに対して,ブレーキ解除によって免疫系のアクセルが入るようにしたのが免疫チェックポイント阻害剤である.PD -1抗体をはじめとする免疫チェックポイント阻害剤はこれまでのがん免疫療法に対する評価を一変させ,有望な治療法として期待されている1).本稿では,免疫チェックポイントにおけるPD -1/PD -L1シグナルの役割について解説し,CTLA - 4経路との違いについて論じたい.Ⅱ 免疫チェックポイントとは免疫システムは,病原体などから生体を守る一方* 産業医科大学医学部分子生物学講座教授がん免疫療法の最新動向─ 免疫チェックポイント阻害剤の将来展望免疫チェックポイント分子の機能─PD-1/PD-L1とCTLA-4を中心に─岩井佳子*免疫システムには,免疫応答を活性化するアクセル(共刺激分子)と,抑制するブレーキ(共抑制分子)が存在する.後者は「免疫チェックポイント(immune checkpoint)」として機能し,自己への不適切な免疫応答や過剰な炎症反応を抑制する.代表的な免疫チェックポイント分子として,Programmed cell death 1(PD -1)やCytotoxic T lymphocyte antigen- 4(CTLA- 4)などの抑制性受容体が,T細胞上に発現し,生理的なリガンドが結合すると,T細胞の増殖やエフェクター機能が抑制される.がんはこの抑制機構を利用して宿主の免疫監視から逃れている.免疫チェックポイント阻害剤は,この抑制性シグナルを遮断することによって,免疫系のブレーキを解除し,腫瘍に対する免疫応答を高める.動物モデルにおいてPD- 1阻害剤は,CTLA- 4阻害剤にくらべて,強い抗腫瘍効果を示し,副作用も少ないことから,完全ヒト型PD- 1 抗体ニボルマブが開発され,2014 年に世界に先駆けて本邦で悪性黒色腫の治療薬として承認され,現在,さまざまな種類のがんへ適応が拡大しつつある.