カレントテラピー 35-2 サンプル page 10/32
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カレントテラピー 35-2 サンプル
Current Therapy 2017 Vol.35 No.2 13免疫チェックポイント阻害療法の基礎と臨床111さらにPD-1とCTLA -4ではノックアウトマウスの表現型には大きな違いがみられる.CTLA -4欠損マウスの自己免疫症状は早期に発症して,全身性かつ重篤で致死的である7).一方,PD -1欠損マウスの自己免疫症状は遅発性かつ臓器特異的で比較的軽症である12),13).抗体投与による副作用はおおむねノックアウトマウスの表現型と相関し,CTLA -4抗体のほうがPD -1抗体よりも有害事象の頻度も高く重症度も増す.PD-1/PD-L1抗体とCTLA-4抗体による抗腫瘍効果には差がみられる.動物モデルにおいてCTLA -4抗体は免疫原性の低い腫瘍に対して単剤では抗腫瘍効果がなく,抗ウイルス効果も報告されていない.一方,PD -1抗体は,免疫原性の低い腫瘍の転移モデルで単剤で抗腫瘍効果を示し17),PD -1阻害によるウイルス感染防御も報告されている15).PD -L1抗体は,免疫原性の高い腫瘍モデルではPD -1抗体と同様に抗腫瘍効果を示すが,免疫原性の低い腫瘍の転移モデルでは効果がみられない16),17).Ⅷ 基礎から臨床へ以上のような基礎医学研究を背景として,免疫チェックポイント阻害剤が開発され,臨床応用が進み,がん治療のパラダイムシフトが起こりつつある.まず完全ヒト型抗CTLA -4 抗体(イピリムマブ)が開発され,1999年にgp100ペプチドワクチンとの併用で悪性黒色腫を対象とした第Ⅰ相臨床試験が開始された18).第Ⅲ相臨床試験で全生存期間の有意な改善が確認され19),2011年に米国食品医薬品局(FDA)により切除不能または転移性悪性黒色腫の治療薬として承認された.欧州では2011年に,本邦では2015年に承認されている.つづいて完全ヒト型抗PD -1抗体ニボルマブが開発され,2006年に進行性がん(悪性黒色腫,非小細胞肺がん,腎細胞がんなど)に対する第Ⅰ相臨床試験が開始された20).2014年にニボルマブは,世界に先駆けて本邦で悪性黒色腫の治療薬として承認され,2015年には非小細胞肺がん,2016年には腎細胞がんが適応となっている.現在,世界中でさまざまながんに対する第Ⅲ相臨床試験が進められており,抗ヒトPD -1抗体としてはニボルマブのほかにpembrolizumabがある.開発中の抗ヒトPD -L1抗体としてはatezolizumab(MPDL3280A),durvalumab(MEDI4736),avelumab(MSB0010718C)などがあり,さまざまながんに対する第Ⅲ相臨床試験が進行中である.Ⅸ おわりにPD -1を標的とした免疫療法で効果がみられるのは多く見積もっても約30%の症例で,残りの70%の症例では効果がみられない.がん組織におけるPD -L1発現と奏効率との関連については,一致した見解が得られていない.PD -L1はがん細胞だけでなく,炎症により免疫担当細胞や血管内皮細胞などさまざまな細胞に発現する.T細胞は,がん以外の多様な細胞から抑制性シグナルをうけとる可能性があることから,がん細胞とT細胞の直接的な相互作用だけでなく,免疫応答や炎症応答を全身的かつ総合的に評価する視点も取り入れた診断法の樹立が重要である.医療経済の観点からも治療効果を予測できるバイオマーカーの探索と信頼性の高い診断法の確立は急務と考えられる.参考文献1)Okazaki T, Chikuma S, Iwai Y, et al:A rheostat for immuneresponses:the unique properties of PD-1 and their advantagesfor clinical application. Nat Immunol 14:1212-1218,20132)Brunet JF, Denizot F, Luciani MF, et al:A new member ofthe immunoglobulin superfamily CTLA-4. Nature 328:267-270, 19873)Linsley PS, Brady W, Urnes M, et al:CTLA-4 is a secondreceptor for the B cell activation antigen B7. J Exp Med174:561-569, 19914)Walunas TL, Lenschow DJ, Bakker CY, et al:CTLA-4 canfunction as a negative regulator of T cell activation. Immunity1:405-413, 19945)Krummel MF, Allison JP:CD28 and CTLA-4 have opposingeffects on the response of T cells to stimulation. J Exp Med182:459-465, 19956)Qureshi OS, Zheng Y, Nakamura K, et al:Trans-endocytosisof CD80 and CD86:a molecular basis for the cell-extrinsicfunction of CTLA-4. Science 332:600-603, 2011