カレントテラピー 35-12 サンプル

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Current Therapy 2017 Vol.35 No.12 91115の場合,血圧回復により虚血が消失する(図1 C),④血管支配の境界領域(borderzone.分水嶺領域watershed area)は,灌流圧が低く流れ着いた血栓が溶解して流れていきにくい(洗い出し不全仮説impairedwashout theory)が,ここが再灌流した場合(図1D),などが挙げられる.虚血の程度や虚血時間によっては再開通しても脳梗塞が残るが,①②の場合は皮質梗塞,③④の場合は境界領域梗塞となる.心原性脳塞栓症の場合,血栓子は動脈原性塞栓症よりも大きいため虚血の病巣は大きくなりやすく症状も重篤な傾向がある.この場合,再開通すると劇的な症状の改善(spectacular shrinking deficit:SSD)となるが,多くの場合,血栓はさらに末梢で再塞栓をきたし画像上は散在性に梗塞巣が残る.古典的なラクナ梗塞は穿通枝の細動脈硬化症によって起こり,TIAが先行することは少ない.ラクナ梗塞では症状が軽度で,24時間から数日のうちに症状がほとんど消失することがあるが,回復は緩徐で,血流の再開通というよりシナプスの可塑性などを背景にした組織修復が主たる機序と考えられる.一方,主幹動脈から穿通枝が分岐する部分に生じたアテローム血栓症(branch atheromatous disease:BAD)では,軽度な症状で発症し数日以内に重症化することが特徴で,時に経過中症状はほとんど消失しTIAの先行と診断される.特に内包領域の虚血のために繰り返し起きる片麻痺はcapsular warning signalと呼ばれ,やがて脳梗塞へ移行する2).Ⅱ TIAと軽症脳梗塞の症状と検査TIAを起こすと3カ月以内に10.5%が脳梗塞を発症するが,その約半数は48時間以内であると報告されている3).TIAの病態がさまざまであるため,再発率や再発した時の重症度は症例によって異なる.一般には,危険因子の数が多いほど再発率が高いことが知られており,独立した再発危険因子として加齢(60歳以上),糖尿病,TIAの持続時間,麻痺の有無,構音障害の有無などの数が多いほどリスクが高まる.こうしたTIAの再発リスクを評価し,専門施設への迅速な紹介や入院を促進する一助としてABCD2(ABCDスクエア)スコアが提唱されている4()表).臨床症状のうち片麻痺やTIAの持続時間が60分を超える場合は特に梗塞となるリスクが高く2点となってA B C D図1 アテローム血栓症におけるTIA の発症機序A:プラーク表面で形成された血小板血栓がその場で血管閉塞をきたしたが,再開通した場合.B:プラーク上に形成された血小板血栓が剥離して末梢の動脈を閉塞したが,再開通した場合(動脈原性塞栓症Artery to Artery embolism).C:高度な狭窄病変に加え血圧変動により末梢の循環不全が生じたが,血圧上昇などにより血流が回復した場合(血行力学不全症).D:高度な狭窄により灌流圧が低下している領域へ血小板血栓が剥離して末梢血管を閉塞したが,再開通した場合(洗い出し不全仮説impaired washout theory).