カレントテラピー 35-12 サンプル

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Current Therapy 2017 Vol.35 No.12 791185Ⅰ はじめに急速に高齢化が進むなか,リハビリテーション(リハ)は,高齢者・障害者の機能とquality of life(QOL)を高め,家族や社会の介護負担を軽減し,社会の活力を高めていくうえで大きな役割を果たす.そのためには,疾患の急性期から地域生活期に至る切れ目のないリハの提供体制の整備が不可欠であるが,併せてこれまで解決困難であった課題に対し,日本が誇る基礎科学研究の知見と最先端技術を結集して革新的リハ治療技術を開発し,臨床応用を進めていくことが求められている.そのためには,神経科学に立脚した基礎研究の積み重ね,臨床効果に関する質の高いエビデンスの蓄積,知財マネジメント,医療機器としての製品化・薬機法承認・保険収載・事業化,臨床現場への普及に向けた取り組みが不可欠である.慶應義塾医工連携チームは,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)によるフェーズごとに力点の置き方が異なる複数の資金の支援を受けて,これまで治療困難であった脳卒中後重度手指麻痺に対し,Brain Machine Interface(BMI)技術を活用した新たな治療法を開発し,その効果の実証と医療機器としての実用化に取り組んできた.本稿では,まず,脳卒中後上肢麻痺の回復の予後および既存のリハ治療手技の効果に関するエビデンスを概観したうえで,われわれが開発を進めている新たなBMIリハシステムを紹介する.* 慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室教授脳卒中診療の最近の動向─ 新しいエビデンスとトピックスBrain Machine Interfaceを用いた最新リハビリテーション里宇明元*脳卒中発症後,麻痺側上肢が実用レベルまで回復するのは20%程度にとどまるとされ,上肢麻痺の回復の予後は必ずしもよくない.近年,成熟脳にも大きな可塑性があるという神経科学研究の知見を踏まえ,麻痺自体の回復を促すためのさまざまなリハビリテーション(リハ)治療手技が注目されているが,今のところ手指機能の回復について有効性が確認された治療法はない.慶應義塾医工連携チームは,治療困難とされてきた脳卒中後重度手指麻痺に対し,運動企図時の脳波変化をトリガーに麻痺側手指を伸展させるBMI リハシステムを開発し,その臨床効果の検証と効果機序の解明を行ってきた.現在,医療機器としての承認に向け,治験を実施中である.さらに,上肢近位の麻痺の回復を促す肩BMIリハシステムを開発中である.これらの革新的リハ機器と既存の優れたリハ機器を「スマートリハ室」として統合し,評価と適応判断に基づいた最適なリハをシームレスに提供することを目指している.