カレントテラピー 35-1 サンプル

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80 Current Therapy 2017 Vol.35 No.180糖尿病性腎症のサロゲートマーカーとは旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野特任准教授 滝山由美サロゲートマーカーとは,臨床転帰であるエンドポイントとの関連性が科学的に証明された,真のエンドポイントの代替となるバイオマーカーである.米国食品医薬品局(Foodand Drug Administration:FDA)は,糖尿病性腎症におけるカプトプリル,イルベサルタン,ロサルタンの薬剤有効性判定のサロゲートマーカーとして,腎機能損失過程の晩期に認められるクレアチニン2倍化〔推算糸球体濾過量(eGFR)57%低下に相当〕を認可している.実際,末期腎不全(end -stagerenal disease:ESRD),全死亡といった真のエンドポイントは達する機会が少ないため,多くの費用,症例数,長期治験期間を必要とし,糖尿病性腎症を含め慢性腎臓病(chronickidney disease:CKD)治療薬開発における大きな障壁となっている.2014年6月,35の国際的コホート研究における170 万人データのメタアナリシスの結果では,2.4年間で0.6%,8,532人がESRDに陥ったが,その52%が2年間で30%のeGFR低下率を呈する一方,従来のサロゲートマーカーである57%のeGFR低下を示した症例は16%に過ぎなかった.半年後,米国腎臓財団(National Kidney Foundation:NKF)とFDA共催による2012年のワークショップ「GFR Decline as an Endpoint forClinical Trials in CKD」で行われた解析報告を含め,CKDサロゲートマーカーとしてのeGFR低下率の有効性について,4編の論文が発表された.CKDを対象とした37の無作為化比較対照試験による9,488人のメタアナリシスでは,eGFR低下率は腎死,eGFR 15mL/分/1.73 m2未満,血清クレアチニン2倍化などの従来のエンドポイントと強い直線関係を有し,30%, 40% eGFR低下率による,それらエンドポイントへのハザード比は9.6,20.3と,サロゲートマーカーとしての有用性が支持された.19の治療対比試験,ならびに13のCKD臨床試験からの3,060例のシミュレーション研究によると,治療などによる急性効果の非存在下では,eGFR低下率40%は,eGFR低下率57%をエンドポイントとした群と比較して,20%強のサンプルサイズ縮小を可能とするに加え第1種過誤(偽陽性)の危険性を10%未満に維持した.本邦において,2016年6月,第59回日本腎臓学会学術集会「学会主導企画2:腎臓病臨床研究,治療薬開発のエンドポイントを再考する」では,沖縄県一般住民健診の69,248人の4年間追跡調査により,尿蛋白増加(試験紙法)がESRD発症に与える影響は小さい一方,eGFR変化率の代替エンドポイントとしての有効性が明らかとなった.さらに最近,ChronicKidney Disease Japan Cohort(CKD-JAC)参加の日本人2,966人を対象としたeGFR 30%または40%変化率とESRD発症リスクとの強い相関関係について論文発表されている.日本の医療現場に即した有用性の高いサロゲートマーカーの確立が期待される.