カレントテラピー 34-9 サンプル page 8/32
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カレントテラピー 34-9 サンプル
Current Therapy 2016 Vol.34 No.9 11急性大動脈解離の病態解明835がこの結果の要因であり,pre-hospital deathの多い本疾患の実数が明らかになったと言える.Ⅷ 診断1 自覚症状からの診断典型的な症状は胸痛もしくは胸背部痛である.しかし無痛性の解離が6%程度存在することを忘れてはならない8).痛みの質・発症は鑑別で問題となる急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)とは異なる.解離では引き裂かれるようなはっきりした痛みが,突然発症し,移動することが多いのに対し9),AMIでは圧迫感,絞扼感であり,前駆症状があることが多い.2 血圧から診断一般的に来院時にはA型解離では正常- 低血圧が多く,B型解離では高血圧が多い.ショックをきたした胸痛疾患はまず「A型解離→心タンポナーデ」を考えるべきであろう(他には胸部大動脈瘤破裂,左冠動脈主幹部が責任病変もしくは3枝病変をもつ急性冠症候群,機械的合併症をもつAMIなど).胸痛をきたした患者における血圧の左右差(>20mmHg以上)は,解離に特異度の高い所見として診断にきわめて重要である9).解離が腕頭動脈に及べば偽腔によって真腔が圧排され真腔の血流が低下することで右上肢の血圧が下がって右<左となる.理論上は解離が左鎖骨下動脈に及べば左上肢の血圧が下がって左<右となるが,実際には頻度は少ない.3 検査から診断1)超音波検査上行大動脈に解離があれば心エコーでflap(内膜と中膜の一部で構成されている真腔と偽腔を隔てる壁)が確認できることがある.心タンポナーデがあれば解離が強く疑われ,診断治療に緊急を要する.血栓閉塞型の解離はエコーでは確認しにくく,超音波検査の限界である.2)CT検査AADの確定診断には必須である.解離の範囲,分枝へ解離の進展,偽腔の開存閉塞,大動脈径などを評価することで,治療方針を立てる.血栓閉塞型ではむしろ単純CTがわかりやすく必須である.また偽腔内の血栓化が不十分であれば開存型と考えるべきであるが,そのような場合には早期相では造影されず遅延相で造影されることがあるので,可能であれば早期相のみならず遅延相も撮像することが望ましい.3)血液検査診断のための特異度の高い検査はない.D-dimer値測定は感度の高い検査としてスクリーニングに用いられるが感度95%前後であり,また特異度は低い10).除外のために補助的に使われる.4)胸部単純X線写真縦郭の拡大,カルシウムサイン(大動脈弓部における石灰化陰影の内側へのシフト)などが解離を疑う所見であるが,感度は低い検査所見である.Ⅸ 治療1 超急性期解離を疑った時点から確定診断に至り,CCUまたは手術室に入るまでに行うことは「降圧,鎮痛,安静」である.この時期が最も不安定であり収縮期血圧100~120mmHg11)を目指す.手術直前の開存A型解離の血圧は,心タンポナーデの発症を回避すべく80~100 mmHgとする.心タンポナーデで血行動態が破綻していれば急速補液,それでも血行動態が保てず,手術まで時間が必要であれば心嚢穿刺をするが,この際ごく少量(5~10 mL)ずつドレナージをして急激な血圧上昇を避ける(controled pericardialdrainage)12).2 急性期1)手術一般には開存A型は緊急手術の適応である.血栓閉塞A型の手術適応は,議論のあるところで,施設によって若干の対応の違いがある.ガイドライン11)では上行大動脈の最大短径50mm,偽腔径12mm,心タンポナーデ症例などを手術適応としている.B型の手術適応は破裂もしくは臓器虚血,対麻痺,腸管虚血,下肢虚血などである.