カレントテラピー 34-9 サンプル

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Current Therapy 2016 Vol.34 No.9 9833所の血流障害(static obstruction)2)で,もう一つは下行大動脈の真腔が偽腔に圧排されることにより,それ以下の真腔への血流の供給が不足することで生じる血流障害(dynamic obstruction)2)である.これらの組み合わせにより,心筋虚血,脳血流障害,上肢虚血,背髄虚血,腸管虚血,腎虚血,下肢虚血など,きわめて多彩な症状が生じる.慢性期には偽腔が拡張して解離性大動脈瘤となることがあり,破裂の原因となる.Ⅳ 発症原因解離の原因はよくわかっていない.大別すれば「慢性的な状況」,「遺伝子異常による(先天的な)結合織障害」,そして「外傷・医原性」の3つに分類できる.「慢性的な状況」として高血圧,睡眠時無呼吸3),大動脈炎,ステロイドの長期使用,等が挙げられる.「遺伝子異常による(先天的な)結合織障害」としてはMarfan症候群(FBN1 遺伝子異常),Loeys-Dietz症候群(TGFBR1 またはTGFBR2 遺伝子異常),血管型Ehlers-Danlos症候群(COL3A1 遺伝子異常),その他(ACTA2 遺伝子異常,SMAD3 遺伝子異常,等)などが挙げられる.おそらく「慢性的な状況」が解離の病因のほとんどを占めると考えられる.「慢性的な状況」および「遺伝子異常による結合織障害」は,いわゆる「解離の準備状態」を形成する.病理学的には,「解離の準備状態」=「中膜の変性」であると考えられている.中膜の変性のひとつに,以前よりよく知られている「嚢状中膜壊死」があるが(図1),これは「遺伝子異常による結合織障害」に多いものの,「慢性的な状況」には少ないことがわかってきた4).一方,「慢性的な状況」と関連する中膜病変は「弾性板の減少」と「弾性板間架橋の減少」(図2)ではないかとされ5),このことにより中膜が脆弱となり,弾性板が大動脈長軸方向にずれやすくなっていると考えられている(図3).さらに大動脈腔の血流が,内膜を介して弾性板をずらそうとする力(ずり応力)として働くと,やがて内膜の破綻が生じてエントリーが形成されて血液が流入し,脆弱な中膜が長軸方向に裂けて偽腔が生じることになる.ずり応力以外にも血行力学的ストレスとして,瞬間的な高血圧,心拍動によるwater -hammer効果,脈圧差,乱流,狭窄後のジェット血流などが挙げられている6).Ⅴ 分類Stanford分類(解離の及ぶ範囲による分類),De-Bakey分類(エントリーの部位と解離の範囲の組み合わせによる分類),偽腔の血栓化の程度による分類(偽腔内にどの程度の血流が残存するかによる分類)(図4)が臨床では用いられている.特にStanford分類と偽腔の血栓化の程度を組み合わせた表記(開存A型,閉塞B型など)がよく用いられる.Ⅵ 開存型と閉塞型開存型と閉塞型がどのように形成されるのか,なにがこの2つの差異をつくるのかよくわかっていない.以下のような仮説が提唱されている.内膜の破綻からエントリーができて血液が大動脈壁内に入り込む.内膜から外膜方向へ向かって流入した血液は中膜のレベルで方向をかえて中膜を長軸方向に引き裂きながら進行して偽腔を形成する.その偽腔内の血液がリエントリーをつくって再び真腔Marfan症候群などの結合織障害嚢状中膜壊死? Entryの形成解離の準備状態=中膜病変解離の発症図1 先天性結合織障害における解離発症の機序大動脈解離の一つの成因として先天性結合織障害がある.この場合の解離の準備状態=中膜病変,の主体は「嚢状中膜壊死」である.