カレントテラピー 34-9 サンプル page 28/32
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カレントテラピー 34-9 サンプル
Current Therapy 2016 Vol.34 No.9 93Key words917大動脈壁の維持機構と大動脈解離病態の解明久留米大学循環器病研究所教授 青木浩樹大動脈解離は,激烈な痛みとともに大動脈の内膜と中膜が剥離し,大動脈壁破壊が急速に進行する疾患である.社会的責任が大きくなる50歳以上の男性に好発し,致死率が高いため社会的な影響も大きい.遺伝子変異を除いて原因不明で,手術・降圧療法が主な治療方針となる.新たな治療法や病態診断法の開発には病態解明が必須であるが,予兆なく発症することが病態解明を阻んでいる.これを解決するために主にマウスモデルを用いた研究が進められている.マウスにおける解離発症刺激として,アンジオテンシンⅡ(AngⅡ)が使用される.AngⅡは強力な昇圧物質であるが,解離発症と血圧は相関せずAngⅡ以外の昇圧物質では解離を発症しないことから,AngⅡの酸化ストレス・炎症促進作用が解離発症に重要と考えられる.事実,活性酸素産生分子Nox1をノックアウトすると解離が抑制される.酸化ストレス物質ホモシステイン投与により,Nox4およびインターロイキン(IL)- 6の発現に続き解離が起こる.IL - 6はStat 3活性化を介してケモカインMcp - 1やサイトカインIL - 17を増加させ解離を促進する.この病態には好中球の細胞外マトリックス(extracellular matrix:ECM)分解酵素Mmp - 9が関与する.これらの知見は,ストレスに対する炎症・破壊応答が解離を促進することを示す.Col3a1(血管型エーラス・ダンロス症候群の原因)はECM分子であり,その低発現マウスは解離を発症する.同じくECM分子のCol1a,ビグリカン,フィビュリン4の低発現やテネイシンCのノックアウトで解離が増悪し,ECMを架橋するリジン酸化酵素の阻害も解離を起こす.また,平滑筋生存因子Akt 2のノックアウトでも解離が増悪する.これらのECM・平滑筋維持機構は解離を抑制すると考えられる.ECM・平滑筋維持と,炎症・破壊応答のバランスによる大動脈壁の恒常性維持機構が明らかにされつつある.血行動態や液性因子ストレスによる恒常性破綻が解離の基本病態と考えられる.例えばマルファン症候群ではTGFβの過剰活性による炎症・組織破壊が起こるが,AngⅡタイプ1受容体阻害薬はTGFβ過剰活性や大動脈病変を抑制し,臨床応用も進んでいる.しかし野生型マウスではTGFβは解離を抑制しており,恒常性に関わる分子を単純に善玉と悪玉に分けることはできない.大動脈壁の恒常性維持機構に着目した解離病態の解明が新たな診断・治療法の開発に結びつくと期待される.