カレントテラピー 34-9 サンプル

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66 Current Therapy 2016 Vol.34 No.9890に押し込むと,ステントのエッジで冠動脈の内膜を損傷する危険がある.以上の理由により短いステントが大動脈に突出している場合は,術中にステントを圧挫しつつ抜去することがある.しかし,ステント抜去にもLMTの内膜損傷の危険がある.また長いステントが留置されている場合,抜去は不可能である.われわれは保険をかける意味で,ステントを抜去するときも抜去しないときも,静脈グラフトによる前下行枝へのバイパスを追加するようにしている.LMTに残存狭窄がなければ静脈グラフトは早期に閉塞すると思われるが,LMTにステント血栓症や内膜損傷による早期の内膜過形成などが発生した場合はこのバイパスが重要な働きをする.自験例の手術1カ月後の造影CTでは,LMTの血流に問題がなくても全例静脈グラフトは開存していた.Ⅵ われわれの治療成績これまでの冠動脈解離を伴うStanford A型急性大動脈解離の治療成績についての報告を見ると,死亡率が21.4~39.4%と高い7)~9).しかしこれらの報告は,術前心筋虚血を伴わない術中所見での冠動脈解離や,上行大動脈人工血管置換術後に新たに生じた冠動脈虚血症例を含んでいる.これらに対しては術中の大動脈基部形成やCABG追加により十分対処可能である.術前から心筋虚血を呈していた症例の治療成績はさらに不良と思われる.術前に心筋虚血を伴う自験例を対象とし,その治療成績を以下にまとめた.1994~2015年まで,当センターにおいて初期治療を施行したStanford A型急性大動脈解離は,非手術症例も含めて709例であった.来院時の12誘導心電図でのST変化と,心エコーでの壁運動異常を認めた症例をcoronary malperfusion合併と定義すると,44例(6%)であった.来院時に心筋虚血を呈していない症例は術中所見で冠動脈解離,断裂を認めても対象から除外した.患者背景を表に示す.年齢,性別には差を認めないが,coronary malperfusion合併症例は,脳虚血の合併が多く,偽腔開存型が多く,心嚢内出血の頻度は有意に低かった(表).冠動脈虚血は左,右が22例ずつ同数であった.右冠動脈虚血症例の50%,左冠動脈虚血症例の64%がショックに陥っていた.44例のうち15例にPCIを施行した.このうち10例がcentralrepairに到達し9例を救命,死亡は1例のみであった.PCIを施行しなかった29例ではcentral repairを25例に施行,12例(48%)が死亡した.PCIを先行することにより,central repairの手術成績が有意に改善した.Ⅶ おわりにCoronary malperfusionを合併したStanford A型急性大動脈解離は,決してまれな疾患ではない.この患者を救命するためには,循環器内科医と心臓血管外科医が普段から戦略を共有し,ハートチームとして機能している必要がある.外科医から突然内科coronarymalperfusionnon coronarymalperfusionp valueNo of Pts 44 665 -Age 63±12 65±12 0.039male 23(52) 354(53) 0.902Cerebral malperfusion 11(25) 42(6) <0.001mesenteric malperfusion 2(5) 22(3) 0.66Limb malperfusion 6(14) 71(11) 0.541Patent false lumen 44(100) 424(64) <0.001Pericardial hemorrhage 14(32) 337(51) 0.015  (%)表当施設におけるA型急性大動脈解離,冠動脈虚血合併症例の特徴非合併症例と比べ,若年者に多く,脳虚血の頻度が高く,偽腔開存型に多く,心嚢内出血の頻度は低い傾向があった.