カレントテラピー 34-9 サンプル page 17/32
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カレントテラピー 34-9 サンプル
Current Therapy 2016 Vol.34 No.9 63887動脈人工血管置換術と冠動脈バイパス術(CABG)が行われるが,すでに壊死が完成した梗塞部は収縮することなく,人工心肺離脱困難.経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support:PCPS)を装着,出血は止まらず,何とかICUまで帰室するが,低心拍出症候群,多臓器不全となる.ではどうすればよかったのだろうか.Ⅱ 診断のコツ大動脈解離の疼痛は,急性心筋梗塞の疼痛より急激に発症し激烈である.また胸痛に先行し背部痛,腰痛を訴える場合もある.解離発症後に冠動脈虚血が起きるので,梗塞前狭心症の病歴があれば解離は否定的である.また四肢の動脈拍動を触診し,明らかな差を認めれば解離を疑うきっかけになる.解離に合併する心筋梗塞は典型的には左または右の主幹部閉塞であり,左の場合はaVRでのST上昇などいわゆる左冠動脈主幹部(left main trunk:LMT)の心電図所見,右の場合は右室枝閉塞を反映した右側胸部誘導におけるST上昇が診断の参考となる.しかし冠動脈の末梢に解離が及び末梢での閉塞をきたしている場合もあるため,12誘導心電図のみでは通常の心筋梗塞との鑑別は困難である1).そこで,経胸壁エコー検査が鑑別の鍵となる.心嚢液貯留,大動脈弁閉鎖不全症,バルサルバ洞の拡大などが見られたら要注意であり,大動脈内にフラップがないかどうか,慎重に調べる.フラップが描出される可能性があるのは上行大動脈,左右総頚動脈,胸部下行大動脈,腹部大動脈である.1カ所でもフラップが見られたら心臓血管外科医を呼び,心臓カテーテル検査前に造影CTを施行するべきである.Ⅲ 急性大動脈解離と急性心筋梗塞,どちらの治療を優先するか?A型急性大動脈解離は常に致死的な心タンポナーデを発症する可能性があるため,できる限り早く上行大動脈人工血管置換術を施行するのが治療の原則である.しかし前述のように手術による冠血行再建には時間を要し,非可逆的な心筋ダメージが避けられない.LMT急性閉塞に対し,3時間後に逆行性心筋保護液を注入するのでは,焼け野原に水をまくようなものである2).右冠動脈閉塞であっても,術後右心不全のため管理に難渋することがしばしばある.われわれは大動脈手術を遅延することの危険性は十分認識しつつ,生命予後にとっては大動脈破裂死亡の危険性より重篤な心筋障害による死亡の影響が大きいと判断し,緊急カテーテルによる冠動脈再疎通A B図1左冠動脈造影所見A ではカテーテルが偽腔内にあり,左冠動脈主幹部の偽腔を造影している.このまま操作しても真腔に到達することはない.カテーテルを下行大動脈から再挿入し真腔造影を行ったところ,B のような高度狭窄所見が得られた.