カレントテラピー 34-9 サンプル

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62 Current Therapy 2016 Vol.34 No.9886Ⅰ はじめに冠動脈虚血はStanford A型急性大動脈解離の重大な合併症である.そもそもA型急性大動脈解離は適切な緊急手術を行わなければ予後不良な疾患であるのに加え,冠動脈主幹部での閉塞による重症冠動脈虚血は,虚血耐性のない心筋に急速に広範な心筋壊死を起こしてしまう.これまでの典型的(と思われる)臨床経過を記す.胸背部痛を訴え心原性ショックとなった患者が救急外来に搬送される.まずは経胸壁心エコー検査と12誘導心電図検査が行われる.壁運動に異常がありST上昇所見があれば,急性心筋梗塞と診断しヘパリンと抗血小板薬を投与,一刻も早く緊急カテーテル検査,治療が行われる.大腿動脈に挿入したシースからガイドワイヤーを上行大動脈まで進めたところ,どうも様子がおかしい.熟練しているはずのジャドキンスカテーテルが冠動脈に入らない.造影すると妙に造影剤が停滞し,大動脈基部の形態がいつもの見慣れたバルサルバ洞と違い,拍動する直線的な構造物が見える.ここで初めて「フラップだ,偽腔造影だ,大動脈解離だ!」と気づく(図1).心臓血管外科医が呼ばれ,手術準備を始める.手術室,麻酔科の準備に約1時間,循環器内科医は神妙にST上昇のままの心電図モニターを見つめ続ける.手術室に入り,麻酔導入,執刀,大伏在静脈採取,人工心肺を装着し大動脈遮断,逆行性心筋保護液を注入し,やっと虚血心筋に酸素化した血液が届く.ここまでの心筋虚血時間は3時間以上である.その後上行大* 横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター外科准教授大動脈解離の診断と治療の最近の動向冠虚血を合併したStanford A型急性大動脈解離内田敬二*冠動脈虚血を合併した急性大動脈解離の治療成績はこれまで不良であった.解離に気づかず重篤な急性心筋梗塞と診断され大動脈解離の治療が遅れるだけでなく,手術による冠血行再建までには心筋に不可逆的なダメージが生じてしまう.術前に抗血小板薬が投与されることもしばしばである.われわれは,大動脈手術の前に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行する治療方針を確立し,成績を改善することができた.鑑別診断,カテーテル治療,手術にはそれぞれコツがある.診断では病歴と脈拍所見から疑いをもち,エコーでフラップを描出することがポイントである.カテーテル治療では真腔への挿入,ステントのサイズと留置部位に注意が必要で,手術中はステントの取り扱いと心筋保護,冠動脈バイパス術(CABG)追加などが重要である.普段から循環器内科医,心臓血管外科医がハートチームとして治療戦略を共有しシミュレーションしていることが必要なだけでなく,救急医,麻酔医,看護師,臨床工学技師,放射線技師も含めた,病院としての総合力が試されるような疾患である.