カレントテラピー 34-9 サンプル

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34 Current Therapy 2016 Vol.34 No.9858シェーマで表わすと図5のようになる.嚢胞状中膜変性(図5 a)では限局的ではあるが,複数の層にわたって弾性線維を中心とした中膜の基本構造の消失が見られる.一方,架橋弾性線維の減少(図5 b)が生じた場合には,基盤としての層構造は比較的保たれる.しかし,lamellar unit内の弾性板同士の結合の減弱や,弾性線維と平滑筋細胞の連結が減少する.そのために,大動脈壁にかかるさまざまな力に対して抵抗力が弱くなる可能性がある.特に層と層との間に「ずれ」を起こす力(shear force)(図5 c)や,層構造を上下に引き剥がす力(tearing force)(図5 d)に対して抵抗性が減弱することが予想される7).つまり,大動脈解離症例の大動脈中膜は,解離が発生する前から脆弱な状態にあり,shear forceやtearing forceなどの力が作用した際に,層の間で解離が生じ,かつ進展する可能性があると考えられる.興味深いことにTGF-βのreceptorの遺伝子異常であり,大動脈解離を発症しやすいとされているLoeys -Dietz症候群においても同様に架橋弾性線維の減少があることを示唆する記述がなされている8).さらに,大動脈解離の誘発実験においてβ-aminopropionitrile(BAPN)を投与したラットの大動脈にも同様の変化が認められている9).これらのことは,基礎疾患や種を問わず,大動脈解離の発生に上記のような弾性線維の構築異常が普遍的に関与していることを強く示唆している.ただ問題は,通常の大動脈解離症例においてこのような架橋弾性線維の減少がなぜ生じるかという点にある.残念ながらこの原因はよくわかっていないが,われわれが検討したところでは,大動脈解離の最大の危険因子である高血圧が関与する可能性が示唆された1).高血圧が中膜平滑筋細胞によるエラスチンの代謝に何らかの影響を及ぼすのかもしれない.Ⅳ Intramural hematoma(IMH)とPenetrating atherosclerotic ulcer(PAU)画像診断の進歩に伴ってIMHとPAUなどの大動脈解離関連病変が発見されるようになってきた.IMHという名称は誤った病態の理解に進む可能性があるため,本邦では臨床的には用いないよう勧告されている4).一方,病理学的にはIMHは「intimal tearのない大動脈解離」と明確に定義することができる病態である.その頻度は決して高いものではなく,村井の報告によれば大動脈解離症例71例中の2例のみで(a) (b)中膜中膜shear forcetearingforce(c) (d)内膜外膜内膜外膜図5大動脈解離症例の大動脈中膜に見られる形態学的異常の模式図とそれから類推される脆弱性a:嚢胞状中膜変性.b:中膜外側における架橋弾性線維の減少.c:shear forceに対する抵抗性の減弱.d:tearing forceに対する抵抗性の減弱.