カレントテラピー 34-9 サンプル

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Current Therapy 2016 Vol.34 No.9 33急性大動脈解離の病態解明857位が最もストレスが強くかかる部位であり,何らかの血行力学的変化が解離の発生や内膜裂孔の発生に大きく関与していることが強く示唆される6).大動脈解離の組織像としては以前より嚢胞状中膜変性(cystic medial degeneration)(図3)が特徴的な変化とされ,解離の発症の最重要の要因と考えられてきた.嚢胞状中膜変性は大動脈中膜に弾性線維と平滑筋細胞の消失や減少,ならびにプロテオグリカンの沈着が限局的に生じ,あたかも嚢胞のようになる病変である5).この病変は以前より嚢胞状中膜壊死(cystic medial necrosis:CMN)と言われてきたものであるが,実際には壊死組織や壊死細胞が病変内に見られるわけではないため,最近では嚢胞状中膜変性や嚢胞状中膜変化(cystic medial change)などの名称が用いられる傾向にある.嚢胞状中膜変性の発生メカニズムは現在も明らかにされてはいないが,変性や形成異常が原因として疑われている.嚢胞状中膜変性は,Marfan症候群を代表とする遺伝性結合織疾患の大動脈解離の大動脈中膜には高頻度に見られ,病変も大きいことから,これらの疾患における大動脈解離の発生に関与していることが強く示唆される.われわれの調査では,Marfan症候群の大動脈解離症例において約8割の症例に嚢胞状中膜変性が認められた5).しかし,Marfan症候群以外の通常の大動脈解離症例においては,約2割程度の症例にしか嚢胞状中膜変性を見出すことができず,また,病変も小さかった5).このことは,解離の発症のすべてを嚢胞状中膜変性だけで説明するのは困難であることを示している.では,通常の大動脈解離にはどのような形態学的変化が見出せるのであろうか.残念ながら通常の光学顕微鏡による組織学的観察では変化を見出すことが難しいのが実情であり,このことが大動脈解離の病理学的研究の進歩を阻む大きな原因になっている.しかし,電子顕微鏡によって詳細に観察すると弾性線維の微細な構築の異常を見出すことができる.図4は大動脈中膜を蟻酸処理して弾性線維のみを残し,その構造を走査電顕で観察したものである.正常の弾性線維(図4 a)は上に述べたように,弾性板(図では水平方向に走っている)とそれをつなぐ架橋弾性線維(図では垂直方向に走っている)からなっており,骨組み様の構造をしている.一方,大動脈解離症例の大動脈中膜(図4 b)では弾性板には大きな変化は見られないが,架橋弾性線維が有意に減少している.われわれの検討では通常の大動脈解離の症例の6割において,このような架橋弾性線維の減少が,解離を生じていない部位の中膜外側において認められた1).この構造異常を嚢胞状中膜変性とともに中膜図3 嚢胞状中膜変性中膜に嚢胞状の病変が見られる.病変内には弾性線維や平滑筋細胞は乏しく,プロテオグリカンの貯留が見られる.Elastica vanGieson 染色.a b図4 大動脈中膜の弾性線維の構造a:正常例.b:大動脈解離症例.蟻酸処理後の走査電顕像.水平方向に配列するのは弾性板であり,垂直方向のものは架橋弾性線維である.