カレントテラピー 34-6 サンプル page 13/30
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カレントテラピー 34-6 サンプル
Current Therapy 2016 Vol.34 No.6 57食事療法研究の最前線567オテンシン系阻害薬の効果との検討も報告されている17).また,単一遺伝子変異による二次性高血圧症や遺伝子改変による高血圧モデル動物(PhysGenKnockout Program, http://rgd.mcw.edu/)もつくられている.しかし,実臨床ではこれらの遺伝子異常の高血圧への寄与率は数%と低く,高血圧の遺伝性とはほど遠いものである.そこで,最近はDNAそのものの変異から,エピゲノム修飾による高血圧の成因研究が進められるようになった.エピゲノム調節は,生活習慣病を含む多くの疾患の原因や臓器障害の要因となることが知られている.例えば糖尿病による炎症や血管障害にもエピゲノム調節がかかわる可能性が示唆され,メタボリックメモリーと呼ばれている18).DNAのシトシン残基のメチル化修飾,ヒストン蛋白がアセチル化,メチル化あるいはリン酸化されること,またnon-coding RNAによる遺伝子翻訳制御が重要なエピゲノム調節である.DNAのメチル化やヒストン蛋白のアセチル化はゲノムのリモデリングなどを介してmRNAの転写を調節するのに対し,non-coding RNAはmRNAと結合しその翻訳を調整する.また,non -coding RNAが結合するmRNAは1:1対応ではなく多:多対応であることから,同時に複数の遺伝子翻訳が調節される.・食塩感受性高血圧とエピゲノム変化遺伝子のプロモーター領域にシトシン残基とグアニン残基と集簇するいわゆるCpG領域のメチル化,あるいはヒドロキシメチル化はその下流の遺伝子の転写を抑制することが一般的である.次世代シークエンサーを用いてこのDNAのメチル化を網羅的に解析したものがepigenome-wide association studies(EWAS)19)として報告されており,肥満症などで解析が進んでいる20).しかし,多因子疾患である高血圧の成因を突き止めるのはきわめて困難で現状ではDNAメチル化率に有意な差を認めていない21).一方,ヒストンアセチル化はヒストンアセチル化酵素(HAT)と脱アセチル化酵素(HDAC)のバランスで規定される.例えばPKA活性はHDAC8をリン酸化し,HDAC活性を低下させヒストンアセチル化を亢進させること22)が知られている.ヒストン修飾の結果,遠位尿細管のNCC活性が亢進すること23)やENaCαの転写調節が報告されている24).このほかにも血管においてはアンジオテンシンⅡによりnon-coding RNAが制御され,その結果microRNA 221, 222を増加させ血管平滑筋の増殖に作用するといった報告がある25).さらに,腎臓のみならず全身に存在するNa+-K+- 2Cl?共輸送体1(NKCC1)は血管トーヌスの調整を行い,その活性の亢進は血圧上昇をもたらす.この遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化を,自然発症高血圧ラット(SHR)と正常血圧コントロールラット(WKY)で比較したところ,SHRではDNAメチル化が抑制されてNKCC1の転写が亢進する方向にあった26).このことは若年の80 90 100 110 120 130 140 15025020015010050(mmHg)正常非食塩感受性高血圧食塩感受性高血圧(mEq /日)平均血圧1日Na摂食量図2ヒトにおける圧利尿曲線図1の動物実験をヒトに外挿すると食塩感受性高血圧と圧利尿曲線の関係はこのように表すことができる.X切片,傾きを規定する因子を明らかにすることで食塩感受性高血圧症の成因を知ることができる.