カレントテラピー 34-4 サンプル

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38 Current Therapy 2016 Vol.34 No.4350Ⅰ はじめに悪性黒色腫は転移を生じやすく悪性度の高い腫瘍とされており,ここ10年来の免疫チェックポイント阻害薬やシグナル阻害薬などの画期的な新薬の開発によって生命予後が改善されつつあるものの,依然として原発巣の早期発見と確実な外科的切除が初期治療の基本であることに変わりはない.悪性黒色腫に対する外科的治療としては,原発巣周囲の一見正常に見える組織を,その下床の筋膜まで広く含めて切除することが局所再発と転移の予防に有用とされ,すでに100年以上前から広く行われてきた.その後,切除範囲の縮小を目指して,病理組織学的な腫瘍の厚み(Breslow’s tumor thickness:TT)に応じた切除範囲が設定されるようになった.近年では,大規模な臨床研究の結果から導き出された切除範囲が,診療ガイドラインや治療指針において推奨されるようになり,これによる外科的治療の均てん化が期待されている.本稿では,皮膚原発悪性黒色腫に対する外科的切除術における切除範囲に関して,日本人に適する切除範囲とその設定に関して考察してみる.Ⅱ メラノーマに対する外科的手術と切除範囲設定の歴史的変遷悪性黒色腫(メラノーマ)は,古くはギリシャ時代より予後不良な黒い腫瘍としてその存在が知られていたが,医学的に悪性黒色腫として報告されるようになったのは19世紀前半以降のことである.英国の外科医Samuel Cooperが,1840年に著書『FirstLines of Theory and Practice of Surgery』1)において,メラノーマにおける早期発見と外科的切除の重要性を報告し,1857年にはWilliam Norrisが著書にて,『メラノーマは他の臓器へ転移しやすく,いったん転移すると治療は無効であるため,周囲の健常皮* 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター皮膚科科長メラノーマ─ 基礎から最新薬物療法まで切除範囲爲政大幾*皮膚悪性黒色腫は進行すると予後不良とされており,免疫療法や分子標的療法などの進歩にもかかわらず,初期治療の基本は依然として原発巣の早期発見と確実な外科的切除である.現代では,腫瘍の病理組織学的厚みに応じた切除範囲が種々のガイドラインにおいて設定されており,これらの基準も国際的に均一化されつつある.外科的切除ではこれらの指針に応じた切除範囲を設定することとなる.しかし,これらのガイドラインの多くは,白人の躯幹や四肢近位部発生例を主体とするデータを基に設定されており,日本人で多く見られる四肢末梢発生例(末端黒子型,acral lentigenous melanoma:ALM)における基準は確立されていない点に留意する必要がある.今後は,日本人例におけるデータの集積と,ALMに対する指針の策定が望まれる.