カレントテラピー 34-12 サンプル

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10 Current Therapy 2016 Vol.34 No.121144わないためOABとは呼ばない.膀胱知覚がある程度温存されている一部の症例で,尿意切迫感が生じる.2)多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)Arakiらは,本邦のMS患者47例中,下部尿路症状を27例(57%)に認め,このうち蓄尿症状単独が8例(17%),排尿症状単独が9例(19%),両症状を併せもつ患者が10例(21%)で,欧米の報告と比べて,排尿症状が多い傾向にあったと報告している14).さらに排尿筋過活動を44%に認め,このうち9割以上は排尿筋外尿道括約筋協調不全を伴っており,橋病変と排尿筋低活動,および頸髄病変と排尿筋外尿道括約筋協調不全の間に相関を認めたとしている.3 馬尾・末梢神経疾患馬尾・末梢神経障害では,一般的に,知覚神経障害による尿意低下・消失と,運動神経障害による排尿筋低活動・無収縮が生じるとされているが,OAB症状を呈する場合がある.1)腰部脊柱管狭窄症による馬尾神経障害58~68%に排尿障害を認めるが,その一方で排尿筋過活動を10~29%に認め,蓄尿障害も少なくない.2)糖尿病性末梢神経障害糖尿病による下部尿路機能障害の特徴は,膀胱知覚低下と排尿障害に代表されるが,排尿筋過活動を25~55%に認める.Ⅳ 非神経因性過活動膀胱1 男女共通の発症メカニズムメタボリック症候群あるいは肥満とOABとの間には強い相関関係があるとの報告が増えている15).しかしアジアのように肥満が少ない国においては,肥満というよりもメタボリック症候群の構成要素,すなわち高血圧・脂質異常・耐糖能異常に関連する血管内皮機能障害,内臓脂肪由来炎症性サイトカインの増加,自律神経系の活動亢進が病態として重要である.したがって,メタボリック症候群よりも生活習慣病がOABを引き起こす原因になっていると考えられる.そしてこれまで特発性のOABとされていた一群の病態生理が明らかになってきた.1)膀胱血流障害「ヒトは血管とともに老いる」といわれているが,血管老化には,酸化ストレス,インスリン・シグナリング,炎症などが関与している.前立腺肥大症で経尿道的前立腺切除術を施行した後も排尿筋過活動が持続する症例では,下部尿路の血流障害が存在すると報告されているが16),血流障害と蓄尿障害との関連に注目が集まっている.イヌ膀胱虚血モデルを用いて,膀胱出口部閉塞がなくても膀胱の慢性血流障害が存在すると排尿・蓄尿機能に影響があるという報告17)に始まり,いくつかの病態モデルで検証されている.Azadzoiらは家兎に腸骨動脈の内皮障害を起こし高コレステロール食で飼育したところ,膀胱壁の血流障害とともに排尿筋過活動や平滑筋切片の収縮反応の亢進がみられ,血流障害がさらに高度になると膀胱壁の線維化から収縮障害が生じると報告した18).その後,遺伝的脂質異常症ウサギ19),総腸骨動脈内膜の損傷後高コレステロール食で飼育して動脈閉塞性変化をきたしたラット20),高血圧自然発症ラット21)で膀胱血流障害と排尿筋過活動の関連について追試している.血流改善が治療につながる可能性についても基礎的検討がなされている.ニコランジル(Katpチャネル開口薬),ファスジル(Rhoキナーゼ阻害薬),オルメサルタン〔アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)〕などが膀胱血流の改善とともに膀胱容量の増大をもたらし22),実際にARB投与中の高血圧患者では排尿症状スコア,蓄尿症状スコアともに有意に低いことが報告されている23).2)自律神経系の活動亢進肥満,メタボリック症候群,食塩過剰摂取が加わると交感神経系は活性化される.その程度は臓器によって異なるが,交感神経系の活性化は血圧上昇や動脈硬化の進展など心血管系への影響のみならず,臓器を還流する微小血管を収縮させることにより,血流障害を引き起こす.耐糖能異常に伴う高インスリン血症は,それ自体増殖因子として前立腺の増殖をもたらすが24),高インスリン血症に伴う交感神経系の活性化は前立腺組織への入力を増大させ,さらなる前立腺細胞の増殖をもたらし,またNGF産生亢進から膀胱壁の神経密度を高めて排尿筋過活動を引