カレントテラピー 34-12 サンプル page 6/36
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カレントテラピー 34-12 サンプル
Current Therapy 2016 Vol.34 No.12 911431 脳疾患機能的脳画像を用いた検討により,健常者では,膀胱充満に伴って,前頭前野,島,帯状回,視床下部の活動性が増強するのに対して,OAB患者ではこれらの部位の蓄尿時の活動亢進が起こらないことが報告されている5).1)脳血管障害OABは脳卒中慢性期には約25%に認められる.脳血管障害に伴って認められるOABは,脳幹部橋排尿中枢に対する前脳からの抑制性投射が脳の病変により障害されるため,すなわち脱抑制がその原因であると考えられていた.しかし,脳梗塞動物モデルを用いた研究の結果,前脳からの抑制性投射の障害と同時に,脳幹に対する促進性投射の亢進も原因であると考えられる6).2)パーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)Positron emission tomography(PET)を用いた脳機能画像解析によると,PDの男性患者では排尿筋過活動出現時に,健常者の膀胱充満時と同様に,中脳水道灰白質,島,被殻,視床の活動性が増すが,小脳虫部の活性化が顕著で,健常者で認められる橋の活動性増加が起こらないことから,PDにおける排尿筋過活動の発生には膀胱充満時に活性化される脳の部位が変化することが関与するものと考えられている7).最近の研究では,PDの蓄尿機能障害には,前述のD1受容体への入力障害に加えて,前頭葉の機能低下の関与も指摘されている8).3)多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)MSAの患者では,排尿筋過活動を56%に,排尿筋低活動を女性の71%,男性の63%に,排尿筋外尿道括約筋協調不全を47%に認めたとの報告がある9).下部尿路機能障害の責任部位としては,橋,脊髄中間外側核,仙髄副交感神経運動核,Onuf 核などが想定されており,これらの領域に変性が生じるため,蓄尿障害と排尿障害をきたすと考えられている.4) 正常圧水頭症(normal-pressure hydrocephalus:NPH)高齢者に多い疾患で,歩行障害,認知症,尿失禁を三徴とする.OAB症状は64~81%にみられ,尿流動態検査上は,排尿筋過活動を71~95%に認める10).本疾患では,脳室拡大は広汎性であるが,脳血流評価による検討では,前頭葉の血流低下との関連が指摘されている.5) 進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy)高齢者に発症し,認知機能障害,核上性眼球運動障害,パーキンソニズムを主徴候とする神経変性疾患である.OAB症状を主体とする下部尿路症状を高頻度に認め,尿流動態検査では,排尿筋過活動と仙髄Onuf 核の変性によるとされる外尿道括約筋筋電図の神経原性変化を高率に認める11).6)大脳白質病変(white matter lesions:WML)MRIで大脳白質の高信号域としてとらえられるこの大脳白質病変は,加齢とともに進行し,尿意切迫感の有病率は増加することが指摘されている12).さらに,前頭葉,前帯状回,海馬部などの大脳白質病変が,尿失禁と関連することが示唆されている.また,切迫性尿失禁を認める高齢女性患者では,前帯状回背側部と右島を結ぶ白質ネットワークが健常対照群と異なることが指摘されており,大脳白質変化があると排尿制御に関与する大脳皮質間を結ぶ特定の白質のネットワークも同様に変化することが報告されている13).2 脊髄疾患1)脊髄損傷典型的な完全損傷例では,膀胱知覚は消失し,排尿筋過活動と排尿筋外尿道括約筋協調不全を呈する.この場合,排尿筋過活動はあっても尿意切迫感を伴表 過活動膀胱の発症メカニズム(神経因性)1.脳疾患脳血管障害(脳出血・脳梗塞),パーキンソン病,多系統萎縮症,正常圧水頭症,進行性核上性麻痺,大脳白質病変,脳腫瘍など2.脊髄疾患脊髄損傷,多発性硬化症,脊椎変性疾患(変形性脊椎症・椎間板ヘルニア),急性散在性脳脊髄炎,急性横断性脊髄炎,HTLV-1関連脊髄症(HAM)など3.馬尾・末梢神経疾患腰部脊柱管狭窄症,糖尿病性末梢神経障害などHAM:human T lymphotropic virus type 1(HTLV- 1)associatedmyelopathy