カレントテラピー 34-11 サンプル

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Current Therapy 2016 Vol.34 No.11 75治療薬解説1115量の低下30)などであり,これらが複合的に作用して効果を発揮すると考えられている.2 疾患に対する効果1)炎症性腸疾患実験腸炎モデルにおいてイヌリンやフルクトオリゴ糖,ラクトース投与による治療効果が明らかにされ31),32),これらの結果を受けて,クローン病患者に対する治療効果の臨床試験が行われた.まず,1日15gのフルクトオリゴ糖を投与する試験が行われ,疾患活動性の低下,粘膜のビフィズス菌の増加が証明された33).引き続いてクローン病患者および健常者を対象とした二重盲検試験が行われ,1日15gのフルクトオリゴ糖の4週間投与により有意な臨床的な改善はなかったものの,IL - 6陽性樹状細胞の減少,IL - 10の発現増加が示された34).Mitsuyamaらはヘミセルロースを多く含む麦芽大麦を投与することで潰瘍性大腸炎患者の疾患活動性が改善することを示し35),その後,同様の報告がなされた36).その他,イスパキュラハスクやイヌリン,フルクトオリゴ糖高含有イヌリンなどを用いた臨床試験が行われ,潰瘍性大腸炎および術後回腸嚢炎の改善効果が示された37).また,乳清発酵物やそのなかの主成分であるDHNAが腸炎モデルや潰瘍性大腸炎患者の腸管障害を改善することが示されている38).これらの結果から,プレバイオティクスは炎症性腸疾患に対する治療として一定の効果が期待できるものと考えられる.2)大腸癌薬剤(azoxymethane:AOM)誘発マウス発癌モデルにおいて,各種オリゴ糖などのプレバイオティクス投与によりビフィズス菌やラクトバシラス菌が増殖すること,腫瘍性病変の発生が抑制されることが示されている39).また,プレバイオティクスによって誘導される短鎖脂肪酸(酪酸)がヒストンの脱アセチル化やDNAメチル化を制御すること40),DNA障害をもつ細胞を除去することが報告されている.乳酸は免疫防御を促進すること41),プロピオン酸や酢酸は大腸癌細胞にアポトーシスを誘導することが知られている42).また,カルシウムやセレン,ビタミンDなどのミネラルの吸収促進による癌発生リスクの低減効果43)やNK細胞の活性化,リンパ球の増殖促進などの免疫系の活性化を通じた抗腫瘍作用も示されている44).しかし,プレバイオティクスによるヒト生体内における抗腫瘍効果を証明した報告はない.今後,腫瘍性病変を対象とした臨床研究への展開が期待される.3)過敏性腸症候群Olesenらはフルクトオリゴ糖を用いた二重盲検試験を行い,症状の改善は認められなかったことを報告したが45),その一方で,Silkらはトランスガラクトオリゴ糖を用いた二重盲検試験の結果から,本症の症状改善に有用であることを明らかにしている46).今後,プレバイオティクスの種類,投与方法,有効症例の選択などに焦点をおいた臨床研究が必要であると考えられる.4)代謝性疾患フルクトオリゴ糖はFFA2受容体陽性L細胞の増殖促進を介してGLP - 1等のインクレチン産生を増加し,膵臓からのインスリン分泌を促すことや47)血中LPS濃度を低下させることが知られている48).また,プレバイオティクスが腸内細菌に作用し,二次胆汁酸によるステロール化合物の排泄を促進することで,コレステロールを減少させることも示されている49).Ⅴ プロバイオティクス由来物質を利用した新規治療法の開発プロバイオティクスが産生する物質はバイオジェニックスとも呼ばれ,生菌を用いたプロバイオティクス治療とは異なり,腸内環境に左右されずに生理作用を発揮する特徴をもつ.プロバイオティクス由来物質には,乳酸や短鎖脂肪酸,ポリフェノールなどがあり,それぞれの成分によって作用が異なる.現時点では,主に機能性食品として用いられており,治療薬として臨床応用されているものはない.われわれは,プロバイオティクスの産生物質を分析し,バシラス菌由来のcompetence and sporulation factor(CSF)50)および乳酸菌由来の長鎖ポリリン酸51)に腸炎改善効果があることを発見した.後者は線維化改善効果や抗腫瘍効果を併せもつことから炎症性腸疾患の新規治療薬として開発を行っている.現在,医師主導臨床研究により炎症性腸疾患への治療効果を検討中で