カレントテラピー 34-11 サンプル

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Current Therapy 2016 Vol.34 No.11 69代替療法1109Ⅴ CD腸炎に対するFMTの効果発現のメカニズムCDは菌交代症,日和見感染症と位置づけられているが,その感染(増殖)が起こるためには正常な腸内細菌叢の構成および機能の変化(dysbiosis)が必要である.典型的な例が抗菌剤の投与による正常細菌叢の攪乱である.FMTの効果発現機序の詳細はいまだ明らかになっていないが,CD感染に伴い腸内細菌叢多様性の低下,すなわち構成菌の種類と数の減少が認められる.ただ,健常状態の腸内細菌叢もしくはそれに由来する代謝産物を供給するだけでCD腸炎が治まることから,健康な腸内細菌叢が形づくる環境がCDの増殖を強力に抑制していると考えられる.抗菌剤の投与による腸内細菌叢の変化についてはさまざまな報告がある.抗菌剤は腸内細菌の数的,種類の劇的減少を誘導するが,さらにこれと関連して劇的な機能の変化が誘導される.マウスを用いた検討では,抗菌剤の投与によって,一次胆汁酸の増加,マンニトールやソルビトールの増加,短鎖・中鎖・長鎖脂肪酸の減少,グリシン,プロリン,システイン,イソロイシンの増加と分岐鎖アミノ酸の減少が起こるとされ12),これらの変化はCDの増殖を刺激する.また,CD感染が成立するかどうかは,個人のもつ腸内細菌叢の違い,個人の免疫力の差,抗菌剤の種類などに影響される.一方,抗菌剤の投与と関連のない散発的なCD腸炎が増えている.微量だが(一般的な培養法などで検出できないが,次世代シークエンサーなどで検出されるレベル)CDを腸内細菌叢の構成菌として備えているヒトでは,食事や環境因子の影響により腸内細菌叢の変化が生じ散発性のCD腸炎が起こると想定される.われわれの腸内細菌のなかには内因性の抗菌蛋白産生菌が存在しており,抗菌蛋白産生菌,内因性抗菌蛋白に感受性のある菌と抵抗性の菌のバランスにより腸内細菌叢が安定化しているという13).以前よりCDに対する内因性抗菌蛋白産生菌の存在が知られていることから14),抗菌剤の投与などによりCDが感受性をもつ内因性抗菌蛋白産生菌が減少することによりCD腸炎が成立する可能性が示唆される.一方,FMTによりCDが感受性をもつ内因性抗菌蛋白産生菌や抗菌蛋白が直接補給されることによりCD腸炎が治まるのではないかという理論も成り立つ.CDの増殖に胆汁酸の変化が関与している.一次胆汁酸は芽胞状態CDの発芽を誘導し増殖を刺激する.一方,FMTにより一次胆汁酸が減少し,二次胆汁酸が上昇するとされる15).Ⅵ IBD,特に潰瘍性大腸炎とFMT1 IBDと腸内細菌IBDモデルマウスの腸炎が無菌環境下では発症しないことから,IBDの病態への腸内細菌の関与が明らかとなった16).また,ヒトのIBDは腸内細菌の豊富に存在する遠位回腸から大腸に好発することも,IBDと腸内細菌の関連を示唆している.注意すべきは,CD腸炎と異なり特定の菌種がIBDの病態に関連しているのではなく,腸内細菌叢全体の量的変化や機能変化がその病態形成に重要と考えられている.2 FMTのIBDに対する効果最近のシステマティックレビューによると17),IBD全体の寛解達成率は36%で,CDは60%と高かったが潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)では22%にすぎなかった.CDについても限られた施設からの短期観察の報告であった.FMTに伴う腹部症状の副作用などが報告されているが重篤なものはない.この結果を見る限り,IBD特にUCに対するFMTの効果は十分なものではない.最近,2つのプラセボ対照二重盲検試験の結果が相次いで報告された.Moayyediらは,75人のUC患者を,FMTを6回受ける群と水の注腸を6回受ける群に分けて検討した18).FMT群の24%が完全寛解に至ったが,プラセボ群(水の注腸)では5%に過ぎなかった.一方,アムステルダムのグループは,50人の中等症UC患者をドナー便のFMT群と自家便投与群に分けて検討した.その結果,37人の患者の評価が可能であったが,2群間に優位な差は認められなかった19).現在までのところ,IBDに対するFMTの効果はいまだ十分とはいえないのが現状である.われわれの