カレントテラピー 34-11 サンプル page 12/32
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カレントテラピー 34-11 サンプル
Current Therapy 2016 Vol.34 No.11 21腸内細菌と腸疾患1061要な菌種のひとつであり,酪酸産生能を有する.粘膜に存在するF. prausnitzii の減少が小腸型CDの術後再発率の上昇と相関することや,マウスを用いた実験においてF. prausnitzii には抗炎症作用ならびに腸炎抑制効果があることが示されている.こうした報告からは,F. prausnitzii が腸管に対して保護的に作用している可能性が示唆される.また,Escherichiacoli (E. coli )を含むEnterobacteria 科の増加もCDにおいて報告されている.特に,adherent -invasiveE. coli (AIEC)はCDの小腸粘膜上皮において高頻度に検出されるという報告がある.AIECは炎症を起こしている小腸粘膜内に侵入し,マクロファージに貪食を受けてもそのマクロファージ内で増殖して,TNF-αの産生を促進させることが知られている.一方,UCにおいては腸内細菌叢の多様性の低下が指摘されるとともに,同一患者における経時的な腸内細菌叢の不安定性が指摘されている.Andohらは,UCとCDの患者の糞便をterminal -restrictionfragment length polymorphism(T-RFLP)法を用いて解析し,寛解期のUC患者の腸内細菌叢は健常者のパターンと比較的相同性がみられる一方で,CD患者では寛解期でも健常者との相同性は低いことを報告している8).またLepageらは双子を対象とした結腸粘膜組織の腸内細菌叢の解析で,UC患者では健常人と比べてActinobacteria門とProteobacteria門の増加がみられたと報告している4).Bacteroidetes門の増減については報告により諸説あり,一定した見解は得られていない.さらにOhkusaらはFusobacteria門のFusobacterium varium (F. varium )が活動期UC患者の腸管粘膜に存在することを報告しており,このF. varium はin vitro における細胞毒性やマウスに対する注腸により大腸粘膜へのびらん形成や炎症細胞浸潤,アポトーシス小体の出現などin vivo においても消化管の炎症に関与していることが示されている9).UCにおけるF. varium の病態形成への関与の程度は十分に明らかとなってはいないが,増悪因子となっている可能性が示唆される.また,CDで多く報告されているF. prausnitzii の減少については,UCでの報告は多くないが,CD患者の小腸粘膜に多く存在するAIECはUC患者においても増加しているとの報告もあり,UCとCDのdysbiosisにおいては,異なる点も多い一方で共通点もみられており,興味深い所見である.IBDにおけるdysbiosisが炎症の原因なのか結果なのかについては,どちらか一方とする決定的な証拠はないが,おそらくこの双方に関連してみられる現象であると考えられる.dysbiosisが消化管の炎症の原因になるという仮説は,IL - 10ノックアウトマウスやCD45Rbhi移入モデルマウスなどの自然発症の腸炎モデルマウスが無菌環境下においては腸炎を発症しないといった事実や,同じく腸炎を自然発症するT -betとRAG2の二重ノックアウトマウスと野生型のマウスを共飼いにすると,野生型のマウスでも腸炎が発症する(ノックアウトマウスの糞便を介して腸内細菌が野生型へ移入される)といった事実により支持される.腸内細菌は消化管粘膜における免疫機能の維持に深く関与している(図).Clostridium 属cluster ⅣやaなどはTreg細胞の分化誘導に関与して腸内の過剰な免疫の抑制に関与する.また,腸管粘膜固有層に存在するFoxp3+ Treg 細胞と,腸管上皮間に存在するT細胞(intra epitherial lymphocyte:IEL)のうちCD4+ IELは外来抗原に対する過剰な炎症を制御する機能を有するが,この抗炎症効果が互いに相補的であり,さらには粘膜内のFoxp3+ Treg 細胞が腸内細菌の存在依存的に,CD4+ IEL へ転換することが明らかにされた10).一方で消化管粘膜に比較的多く存在するヘルパーT細胞の一種であるTh17細胞は,IL - 17A,IL - 17F,IL - 22などのサイトカインを産生し,好中球の集積や炎症を惹起するほか,上皮における抗菌ペプチドの産生を促進させて消化管粘膜のバリア機能を高めるなどの働きを担い,感染防御においても重要な役割を果たしている.このTh17細胞による免疫応答が過剰となると多発性硬化症や関節リウマチをはじめとした自己免疫疾患の病態形成に寄与すると考えられており,IBDにおいてもその関与が示唆されている.興味深いことに無菌マウスの消化管においてはTh17細胞の数が著明に減少し11),セグメント細菌(segmentedfilamentous bacteria:SFB)を無菌マウスの消化管に定着させるとTh17細胞が増加することが明らかと